(1)解説授業動画
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(2)解説授業の原稿
酸化還元反応の化学反応式を作るためには3つの段階があります。①まずは半反応式を作り、②それらを組み合わせてイオン反応式とし、③そして化学反応式を作ります。
硫酸酸性の過マンガン酸カリウムと硫酸鉄(Ⅱ)の酸化還元反応の化学反応式を作りながら、この3つの段階を確認します。
ちなみに硫酸酸性とは硫酸を使って酸性にした水溶液という意味です。後で重要になるので意味を理解しておきましょう。
①半反応式
まずは半反応式を作ります。半反応式の作り方は、反応物と生成物を書き、次に電子をそろえ、H+をそろえ、H2Oをそろえる。この順番で作ります。
過マンガン酸カリウムの半反応式:MnO4– + 5e– + 8H+ → Mn2+ + 4H2O
酸化剤の過マンガン酸カリウムから半反応式を作ります。
反応物と生成物に関しては覚えておかないといけません。過マンガン酸カリウムの場合は過マンガン酸イオンが反応物でマンガンイオンが生成物となります。カリウムイオンの方は酸化還元反応に関与してこないので半反応式には書きません。
半反応式の作り方としては、まず酸化数を確認します。過マンガン酸イオンのマンガンの酸化数は+7で、マンガンイオンの酸化数は+2なので、マンガンは電子を5個受け取ったことになります。酸化数が減ればその分だけ電子を受け取り、逆に酸化数が増えるということはその分だけ電子を放出したということになります。
次に左辺と右辺の電荷の合計を確認します。今回、左辺の電荷は過マンガン酸イオンが-1で、電荷が-1の電子がさらに5個あるので左辺は全体として-6となっています。それに対して右辺は今+2となっています。この左辺と右辺の電荷の合計を調整するように水素イオンを加えます。つまり、今回は左辺に水素イオンを8つ加えます。そうすることで-6+8=+2となって左辺と右辺の電荷の合計がそろいます。
そして最後に、左辺と右辺のHの数をそろえるように水を加えます。今回は右辺に水を4つ加えます。
これで酸化剤である過マンガン酸カリウムの半反応式ができました。
MnO4– + 5e– + 8H+ → Mn2+ + 4H2O
硫酸鉄(Ⅱ)の半反応式:Fe2+ → Fe3+ + e–
続いて還元剤の硫酸鉄(Ⅱ)の半反応式を作ります。
硫酸鉄(Ⅱ)の半反応式の反応物は2価の鉄イオンです。そして生成物は3価の鉄イオンとなります。今回、硫酸イオンは酸化還元反応に関与しないので半反応式に書く必要はありません。
次に電子を加えるために酸化数の変化を確認します。2価の鉄イオンの酸化数は+2で、3価の鉄イオンの酸化数は+3です。酸化数が1増えているので、右辺に電子を1個加えます。
この半反応式は水素イオンや水による調整は必要ないのでこれで完成です。このようにして酸化剤と還元剤の両方の半反応式ができました。
Fe2+ → Fe3+ + e–
②イオン反応式
次に、2段階目のイオン反応式を作ります。
イオン反応式の作り方は半反応式から電子を消去します。半反応式を並べて、電子の数がそろうように、両辺に何倍かします。
今回は還元剤の半反応式の両辺を5倍します。そして、この2つの半反応式を足し合わせ、両辺の電子を消します。これでイオン反応式ができます。
MnO4- + 5Fe2+ + 8H+ → Mn2+ + 5Fe3+ + 4H2O
③化学反応式
それでは3段階目の化学反応式を作ってみましょう。
先ほど作ったイオン反応式を化学反応式に変えていきます。その際、注意することが2つあります。1つ目は、イオンになっているものをイオンじゃない状態にすること、そして2つ目は、両辺の原子の数をそろえるということ、この2つに注意します。
左辺:KMnO4 + 5FeSO4 + 4H2SO4
まずは左辺をイオンじゃない状態にしてみます。
過マンガン酸イオンMnO4-はもともと過マンガン酸カリウムなので過マンガン酸カリウムKMnO4とします。鉄(Ⅱ)イオンFe2+はもともと硫酸鉄(Ⅱ)なので硫酸鉄(Ⅱ)FeSO4とします。
そして、水素イオンH+ですが、水素イオンがどこから来たかというと、最初に確認した、酸性にするために入れている硫酸から来ているのです。そのため硫酸H2SO4を書きます。硫酸はH2SO4なので8個の水素イオンを出そうと思えば4H2SO4となります。
そして左辺をイオンじゃない状態にしたら、加えたものを下に書き出しておきます。
過マンガン酸イオンMnO4-を過マンガン酸カリウムKMnO4にするためにK+を1個加えて、鉄(Ⅱ)イオンFe2+を硫酸鉄(Ⅱ)FeSO4にするためにSO42-を5個加えて、水素イオンH+を硫酸H2SO4にするために、SO42-を4個加えました。
右辺:MnSO4 + 5/2Fe2(SO4)3 + 4H2O + 1/2K2SO4
この左辺に加えたものと同じものを右辺に加えて、両辺のつじつまを合わせていきます。
まずはマンガンイオンMn2+ですが、左辺に加えたものの中でマンガンイオンと反応するのは硫酸イオンSO42-だけなので硫酸マンガンMnSO4となります。
次に3価の鉄イオンFe3+ですがこちらも陽イオンなので、くっつくことができるのは陰イオンの硫酸イオンSO42-だけです。価数に注意してくっつけるとFe2(SO4)3となり、右辺の鉄イオンの数は5個なので係数を5/2とします。とりあえずこの段階で係数は分数になっていても構いません。
そして、水はイオンではないためそのまま書きます。
ここまでの段階で右辺に加えたものを確認してみると、SO42-を17/2個使った状態です。
ということは、残りK+を1個、SO42-を1/2個加えなければ両辺のつじつまが合いません。そのため、この2つを組み合わせて硫酸カリウムK2SO4を右辺に加えます。そして係数を1/2とすれば左辺に加えたものをすべて使って、両辺の原子の数のつじつまが合います。
KMnO4 + 5FeSO4 + 4H2SO4 → MnSO4 + 5/2Fe2(SO4)3 + 4H2O + 1/2K2SO4
化学反応式の完成
入試などの答案では係数を分数にできないので、両辺を2倍して化学反応式の完成となります。
2KMnO4 + 10FeSO4 + 8H2SO4 → 2MnSO4 + 5Fe2(SO4)3 + 8H2O + K2SO4
今回、例として挙げた硫酸酸性の過マンガン酸カリウムと硫酸鉄(Ⅱ)の酸化還元反応の化学反応式を作るのは、係数が分数になったりして、他のものより少し難易度が高いです。しかし、これができるようになれば、他の酸化還元反応の化学反応式を作ることもできるようになるので、ぜひ練習してみてください。
化学反応式の左辺の補足説明
それでは、ここでイオン反応式から化学反応式に変える部分について補足します。特に右辺の3価の鉄イオンが硫酸鉄(Ⅲ)Fe2(SO4)3になったときに、係数がなぜ5/2になるかについての質問が多かったので、この部分がなるべく分かるように解説します。
まずは左辺ですが、これは問題文などを見て、それぞれのイオンの元となる物質を書きます。過マンガン酸イオンMnO4-は過マンガン酸カリウムKMnO4となり、2価の鉄イオンFe2+は硫酸鉄(Ⅱ)FeSO4となり、水素イオンH+は硫酸H2SO4となります。
このとき注意したいのは、硫酸H2SO4の係数は8ではなく、4とすることです。なぜ4なのかというと硫酸1分子の中に、水素原子は2つあるからです。つまり、硫酸1分子あたり水素イオンを2つ出すことができるので、硫酸が4分子あれば、4×2で8個の水素イオンを出すことができるのです。
そして、左辺をイオンからイオンではない状態にしたときに、追加したイオンの数をメモしておきましょう。
化学反応式の右辺の補足説明
次に、右辺をイオンからイオンではない状態に変えていくのですが、このとき、先ほどメモした追加したイオンを使っていきます。なぜなら、化学反応式の原則として、左辺と右辺のそれぞれの原子の数は、必ず同じになっていないといけないので、左辺にイオンを加えたのであれば、それと同じものを同じ数だけ右辺に加えないといけないからです。
それでは、右辺を考えていきます。
まずは、マンガンイオンMn2+ですが、これは硫酸イオンSO42-とくっつきます。
なぜならマンガンイオンは陽イオンで、硫酸イオンは陰イオンだからです。つまり、陽イオンとはプラスの電気を帯びているということなので、同じ陽イオンであるカリウムイオンとは、反発し合ってくっつくことがないからです。それに対して、陰イオンであればマイナスの電気を帯びているので、プラスとマイナスの引き合う力、いわゆる、静電気力(クーロン力)によってくっつきます。
すると、硫酸マンガンMnSO4となります。このとき、右下に数字を加える必要はありません。なぜなら、マンガンイオンは+2で、硫酸イオンは-2なので、+2-2=±0となるからです。このように化学反応式の化合物や分子などは全体として、電荷が±0になっていないといけません。
そして、次に3価の鉄イオンFe3+です。この鉄イオンもマンガンイオンと同様に陽イオンなので、硫酸イオンとくっつきます。
しかし、ここでFeSO4としてはいけません。なぜなら3価の鉄イオンをFeSO4としてしまうと、鉄イオンが+3で硫酸イオンが-2なので、電荷の合計が+1となってしまいます。これでは、プラスの電気を帯びたままになってしまい、化学反応式では全体として±0にしないといけないというルールに反してしまいます。
そこで、Fe2(SO4)3とします。なぜなら、こうすることによって、+3のFeが2個なので、Fe2の部分で+3×2=+6となり、-2のSO4が3個あるので、(SO4)3の部分で-2×3=-6となり、Fe2(SO4)3の電荷の合計は±0になるからです。これが、硫酸鉄(Ⅲ)の化学式がFe2(SO4)3となる理由です。
これで、3価の鉄イオンFe3+をイオンではない状態にできたので、次は、係数を考えます。
もともと鉄イオンは5個あったので、あるいは、左辺を見たときに鉄は5個あるので、右辺も鉄の数は5個にならないといけません。そのため、Fe2(SO4)3の係数は5/2とします。なぜなら硫酸鉄(Ⅲ)1つの中に鉄は2個含まれているので、硫酸鉄(Ⅲ)が5/2個あれば、2×5/2で合計鉄は5個あることになるからです。これが、Fe2(SO4)3の係数が5/2になる理由です。
そして、残りの水H2Oはイオンでないので、そのまま書きます。
ただ、これで終わりではありません。今、MnSO4で硫酸イオンSO42-を1個と、5/2Fe2(SO4)3で硫酸イオンSO42-を3×5/2=15/2個使ったので、硫酸イオンを合計17/2個使った状態です。左辺に硫酸イオンSO42-は9個つまり18/2個加えていたので、右辺で17/2個使えば硫酸イオンSO42-は1/2個残ります。さらにカリウムイオンK+も使っていないので、これらがまだ残っています。
よって、マンガンイオンMn2+と鉄(Ⅲ)イオンFe3+はもうすべて使っているので、残り物のカリウムイオンK+と硫酸イオンSO42-でくっつき、硫酸カリウムK2SO4となります。なぜK2SO4なのかというと、カリウムイオンが+1なので、K2とすれば+1×2=+2となり、SO4は-2なので、K2SO4とすると合計±0となるからです。
そして、最後に両辺の原子の数をそろえるために、K2SO4の係数を1/2とします。K2SO4の係数を1/2とすれば、Kの数が2×1/2=1個となり、SO4の数が1/2個となるので、左辺に加えたものをきれいに全て使い切ることができます。
これで、イオン反応式をイオンではない状態にすることができました。あとは、係数の分数を整数にするために、両辺を2倍すれば化学反応式の完成です。
(3)解説授業の内容を復習しよう
(4)化学反応式の王道(酸化還元反応)の解説一覧
【酸化剤と還元剤の半反応式】
①酸化還元反応の化学反応式の作り方(硫酸酸性の過マンガン酸カリウムと硫酸鉄(Ⅱ)の反応)
②銅の酸化還元反応の化学反応式(銅と熱濃硫酸、銅と希硝酸、銅と濃硝酸)
③銀の酸化還元反応の化学反応式(銀と熱濃硫酸、銀と希硝酸、銀と濃硝酸)
【酸化還元反応の化学反応式】
①酸化還元反応の化学反応式の作り方(硫酸酸性の過マンガン酸カリウムと硫酸鉄(Ⅱ)の反応)
②銅の酸化還元反応の化学反応式(銅と熱濃硫酸、銅と希硝酸、銅と濃硝酸)
③銀の酸化還元反応の化学反応式(銀と熱濃硫酸、銀と希硝酸、銀と濃硝酸)
(5)酸化還元反応と金属のイオン化傾向の解説一覧
①酸化還元反応の化学反応式の作り方(硫酸酸性の過マンガン酸カリウムと硫酸鉄(Ⅱ)の反応)
②酸化還元反応の計算(過マンガン酸イオンの色、滴定の終点についての解説もしています)
③金属のイオン化傾向を完全に理解しよう(水との反応・酸との反応)
④「酸化数直線」を知っておくと酸化還元反応をより理解できる(塩素・硫黄・窒素の酸化還元反応)
(6)参考
☆酸化還元反応と金属のイオン化傾向(化学基礎)の解説・授業・知識・演習問題一覧
☆化学の解説動画・授業動画一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学知識一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学知識テスト一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学の解説・授業・知識・演習問題一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学の典型パターン一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)