銀の酸化還元反応の化学反応式(銀と熱濃硫酸、銀と希硝酸、銀と濃硝酸)【化学反応式の王道】

(1)解説授業動画

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(2)解説授業の原稿

銀の酸化還元反応

銀の酸化還元反応について解説します。銀は熱濃硫酸と反応すると二酸化硫黄を生じ、希硝酸と反応すると一酸化窒素を生じ、濃硝酸と反応すると二酸化窒素を生じます。

銀と熱濃硫酸
Ag + 2H2SO4 → Ag2SO4 + SO2 + 2H2O

銀と希硝酸
3Ag + 4HNO3 → 3AgNO3 + NO + 2H2O

銀と濃硫酸
Ag + 2HNO3 → AgNO3 + NO2 + H2O

これらの反応はすべて酸化還元反応であり、この3つの化学反応式は酸化還元反応の化学反応式の作り方で作ることができるので、覚える必要はありません。

今回はこの3つの化学反応式を酸化還元反応の化学反応式の作り方で作ってみようと思います。

「熱濃」硫酸である理由

それでは、化学反応式を作る前に知っておいてほしいことが3つあるので、まずはそちらを確認します。

まず知っておきたいのが、希硫酸には酸化力がないということです。硫酸を酸化剤として使う場合は、熱濃硫酸にしないといけません。

ちなみに常温の濃硫酸にも酸化力はないので、熱した濃硫酸にしないといけません。熱濃硫酸には強い酸化力があるので、酸化還元反応に使うことができます。

塩酸や希硫酸では反応しない理由

また、銀や銅は塩酸や希硫酸といった酸化力のない酸とは反応しません。塩酸や希硫酸は強酸だけど、酸化力のない酸なので注意しましょう。

たまに酸と酸化剤を混同してしまう人がいますが、酸は電離して水素イオンを出す物質のことで、酸化剤は相手を酸化させる能力を持った物質のことです。そのため塩酸や希硫酸など強酸だけど酸化力を持っていない物質というものもあります。

では、なぜ銀や銅は酸化力のない酸と反応せず、鉄や亜鉛などは酸化力のない酸と水素を出して反応するのでしょうか。

その理由は金属のイオン化傾向にあります。亜鉛や鉄は水素よりもイオン化傾向が大きいので、水素イオンがあれば水素イオンと酸化還元反応をし、亜鉛や鉄はイオンとなり、水素イオンは還元されて水素となります。

しかし、銅や銀は水素よりもイオン化傾向が小さいため、水素イオンがあったとしても酸化還元反応は起こらず、水素イオンは還元されないので水素が発生しません。したがって、銀や銅は熱濃硫酸や硝酸と反応したとしても水素を発生することはありません。

この2番目のポイントはとても重要なので必ず理解していないといけません。理解が不十分な場合は、金属のイオン化傾向を必ず復習するようにしてください。

硝酸の還元反応(NO2とNOの発生)

それでは最後に知っておきたいポイントは、硝酸は還元されると二酸化窒素と一酸化窒素の両方を生じるということです。

しかし先ほど書いた化学反応式では、希硝酸では一酸化窒素だけが、濃硝酸では二酸化窒素だけが生じるとしていました。それはなぜなのかをこれから説明します。

まずポイントとなるのが二酸化窒素は水によく溶ける気体であり、一酸化窒素は水に溶けにくい気体ということです。そのため希硝酸は硝酸の濃度が小さく水が多いので、発生したNO2がほとんど溶けてしまうのです。よって、希硝酸が還元された後はNOだけが残るということになります。

また一酸化窒素の中の窒素の酸化数は+2で、二酸化窒素の中の窒素の酸化数は+4です。つまり一酸化窒素が酸化されると二酸化窒素となるわけですが、濃硝酸は硝酸の濃度が大きく、硝酸は酸化力が強いので、発生した一酸化窒素は直ちに酸化されて二酸化窒素となります。そして水の量が少ないので、二酸化窒素が水に溶けずに、気体として発生するということになります。

銅や銀の酸化還元反応においてはこれらも知っておきましょう。

銀と熱濃硫酸の反応

それでは化学反応式を作っていきます。酸化還元反応の化学反応式の作り方の詳しい解説は別の動画でしていますので、もし作り方を知らない場合はまずそちらをご覧になってください。

まずは銀と熱濃硫酸の化学反応式を作っていきます。

半反応式

最初に半反応式を作ります。

今回の酸化剤の半反応式は反応物が硫酸で、生成物が二酸化硫黄です。まずは硫酸の中の硫黄の酸化数と、二酸化硫黄の中の硫黄の酸化数を確認します。硫酸の中の硫黄の酸化数は+6で、二酸化硫黄の中の硫黄の酸化数は+8です。そのため硫酸は電子を2個受け取ったということなので、左辺に電子を2個書きます。次に左辺の電荷の合計を考えてみるとー2であり、右辺の電荷の合計は0なので、左辺にH+を2つ加えます。そうすることで、左辺と右辺の電荷の合計がつり合います。あとはOの数を揃えるために、右辺に水を2つ加えると酸化剤の半反応式が完成します。

酸化剤:H2SO4 + 2H+ + 2e → SO2 + 2H2O

続いて還元剤ですが、反応物が銀で生成物が銀イオンです。そのため酸化数が0から+1になっているので、右辺に電子を1つ加えて還元剤の半反応式が完成します。

還元剤:Ag → Ag+ + e

イオン反応式

次にこの2つの半反応式を足して、イオン反応式を作ります。今回は酸化剤の電子の係数が2で、還元剤の電子の係数が1なので、還元剤の半反応式の両辺を2倍して足せばイオン反応式ができます。

2Ag + H2SO4 + 2H+ → 2Ag+ + SO2 + 2H2O

化学反応式

そして最後に、イオンとなっているものをイオンじゃない状態にして化学反応式ができます。

銀と硫酸はイオンではないのでそのまま書きます。そして、左辺の水素イオンはどこから来たかというと、今回は熱濃硫酸から来ています。そのため水素イオンをH2SO4とします。つまり今回、熱濃硫酸は酸化剤としてのはたらきと、水素イオンを供給するはたらきの2つのはたらきをしているということになります。

そして今、左辺にSO42-を1つ加えたのでつじつまを合わせるために右辺にもSO42-を1つ加えます。今回、銀イオンが硫酸イオンとくっつきます。すると硫酸銀となり、残りはそのまま書くと以下のようになります。

2Ag + H2SO4 + H2SO4 → Ag2SO4 + SO2 + 2H2O

最後に左辺の硫酸をまとめると、銀と熱濃硫酸の酸化還元反応の化学反応式の完成です。

Ag + 2H2SO4 → Ag2SO4 + SO2 + 2H2O

銀と希硝酸の反応

それでは次は銀と希硝酸の化学反応式を作ります。

半反応式

まずは半反応式ですが、今回、酸化剤は希硝酸なので、反応物は硝酸で生成物は一酸化窒素です。次に硝酸の中の窒素の酸化数を確認すると+5で、一酸化窒素の中の窒素の酸化数を確認すると+2です。そのため硝酸は電子を3個受け取ったということなので、左辺に電子を3個加えます。そして、左辺の電荷の合計がー3で、右辺は0なので左辺に水素イオンを3つ加えて電荷の合計がつり合うようにします。最後にOの数を揃えるために右辺にH2Oを2つ加えて酸化剤の半反応式ができました。

酸化剤:HNO3 + 3H+ + 3e → NO + 2H2O

続いて、還元剤の半反応式ですが、これは先ほどと同じものになります。

還元剤:Ag → Ag+ + e

イオン反応式

次にイオン反応式ですが、今回は還元剤の半反応式の両辺を3倍して、足し合わせます。すると以下のようになります。

3Ag + HNO3 + 3H+ → 3Ag+ + NO + 2H2O

化学反応式

最後にイオンとなっているものをイオンじゃない状態にして化学反応式を作ります。

左辺の銀と硝酸はイオンではないのでそのまま書きます。次に、左辺の水素イオンがどこから来たかを考えてみると、今回は希硝酸から出た水素イオンとなっています。硝酸イオンを6個加えて6HNO3とします。この希硝酸も酸化剤としてのはたらきと、水素イオン供給するはたらきの2つのはたらきをしているということになります。

そして、左辺にNO3を3個加えたので、つじつまを合わせるために右辺にも NO3を3個加えます。今回は銀イオンが硝酸イオンとくっつきます。すると3AgNO3となります。あとはそのまま書きます。

3Ag + HNO3 + 3HNO3 → 3AgNO3 + NO + 2H2O

そして、左辺の硝酸をまとめて銀と希硝酸の酸化還元反応の化学反応式が完成します。

3Ag + 4HNO3 → 3AgNO3 + NO + 2H2O

銀と濃硝酸の反応

それでは最後に銀と濃硝酸の化学反応式を作ります。

半反応式

まずは酸化剤の半反応式ですが、今回、酸化剤は濃硝酸なので、反応物が硝酸で生成物が二酸化窒素です。硝酸の中の窒素の酸化数は+5で、二酸化窒素の中の窒素の酸化数は+4です。よって硝酸は電子を1つ受け取ったので、左辺に電子を1個を加えます。次に左辺の電荷の合計がー1で右辺が0なので、水素イオンを1つ加えて両辺の電荷がつり合うようにします。そして最後にOの数を揃えるために右辺にH2Oを1つ加えると酸化剤の半反応式ができます。

酸化剤:HNO3 + H+ + e → NO2 + H2O

還元剤が銀なので、還元剤の半反応式は先程と同じものになります。

還元剤:Ag → Ag+ + e

イオン反応式

そしてイオン反応式ですが、今回はどちらの半反応式の電子の係数も1なので、そのまま足し合わせると以下のようになります。

Ag + HNO3 + H+ → Ag+ + NO2 + H2O

化学反応式

そして最後に、イオンとなっているものをイオンじゃない状態にして化学反応式を作ります。

まず、銀と硝酸はイオンではないのでそのまま書きます。次に、水素イオンは濃硝酸から来ているので、NO3を1つ加えてHNO3とします。

左辺にNO3を1つ加えたので、つじつまを合わせるために右辺にもNO3を1つ加えます。今回は銀イオンが硝酸イオンとくっつきます。するとAgNO3となります。あとはそのまま書きます。

Ag + HNO3 + HNO3 → AgNO3 + NO2 + H2O

最後に左辺の硝酸をまとめて、銅と濃硝酸の酸化還元反応の化学反応式が完成しました。

Ag + 2HNO3 → AgNO3 + NO2 + H2O

いかがだったでしょうか。今回作った3つの化学反応式はぜひ自分でも作ってみてください。

(3)解説授業の内容を復習しよう

酸化還元反応の化学反応式

(4)化学反応式の王道(酸化還元反応)の解説一覧

【酸化剤と還元剤の半反応式】

酸化還元反応の化学反応式の作り方(硫酸酸性の過マンガン酸カリウムと硫酸鉄(Ⅱ)の反応)

銅の酸化還元反応の化学反応式(銅と熱濃硫酸、銅と希硝酸、銅と濃硝酸)

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【酸化還元反応の化学反応式】

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銅の酸化還元反応の化学反応式(銅と熱濃硫酸、銅と希硝酸、銅と濃硝酸)

銀の酸化還元反応の化学反応式(銀と熱濃硫酸、銀と希硝酸、銀と濃硝酸)

(5)参考

酸化還元反応(理論化学)の解説・授業・知識・演習問題一覧

化学反応式の王道の解説動画・授業動画一覧

化学反応式の王道(理論化学・無機化学)

化学反応式一覧(理論化学・無機化学)

化学計算の王道(化学基礎)

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