(1)解説授業動画
☆YouTubeチャンネルの登録をよろしくお願いします→大学受験の王道チャンネル
(2)解説授業の原稿
ハーバー・ボッシュ法とは何か
今回はハーバー・ボッシュ法について解説します。
ハーバー・ボッシュ法とはアンモニアを工業的に合成する方法のことです。
窒素と水素が反応して、アンモニアが生成する反応(N2+3H2 ⇆ 2NH3)ですが、ハーバー・ボッシュ法では四酸化三鉄(Fe3O4)を触媒として、高温高圧にすることでアンモニアをたくさん合成します。
なぜ高温高圧にする必要があるのか
では、なぜ高温高圧にする必要があるのか考えていきます。
まずは、この化学反応式(N2+3H2 ⇆ 2NH3)はどのような反応で、どのような平衡状態を作るか確認します。
平衡状態のグラフ
この反応(N2+3H2 ⇆ 2NH3)の平衡状態のグラフは下図のようになります。
窒素と水素とアンモニアの混合気体におけるアンモニアの割合を縦軸に、温度を横軸とすると、このようなグラフとなります。
温度と平衡移動
温度を上げれば上げるほどアンモニアの割合は小さくなり、温度を下げれば下げるほどアンモニアの割合は大きくなります。つまり、温度を上げるとアンモニアの量は減っているので、平衡が左へ移動しているということが分かります。
したがってルシャトリエの原理より、温度が上がったときは温度を下げようと平衡が移動するので、左向きの反応、つまり、逆反応が吸熱反応であることが分かります。よって、正反応は発熱反応であることも確認できます。
圧力と平衡移動
また、圧力を小さくするとグラフは下に移動し、圧力を大きくするとグラフは上に移動します。このことはルシャトリエの原理で説明できます。
つまり、N2+3H2 ⇆ 2NH3の係数を見ると、左辺と右辺の総分子数の比が4:2であることが分かるので、圧力を上げた場合は、分子数が減少する方向に平衡が移動するため、右側に平衡が移動し、アンモニアの量が増えるのです。
逆に圧力を下げた場合は、分子数を増やすために平衡が左へ移動するため、アンモニアの量が減少します。
低温高圧にすると平衡は右に移動する
以上より、低温高圧にするほうが平衡は右に移動するということが分かります。温度を下げるとそれだけアンモニアの量が増え、圧力を上げるとそれだけアンモニアの量が増えるのです。
ここで先ほど言ったことと矛盾を感じるかもしれません。先ほどは、工業的には高温高圧でアンモニアをたくさん合成していると言いました。
しかし、ルシャトリエの原理から考えると、平衡を右に移動させるためには低温高圧にするほうが良いです。高圧の部分は共通しているとして、低温のほうが平衡が右に移動するのに、なぜ工業的には高温で合成しているのでしょうか。
温度と反応速度
それは、温度によって変わるもう1つの要素である反応速度が関係します。
つまり、高温にしたほうが反応速度が大きくなるので、工業的には高温高圧で合成しているのです。反応速度が大きくなるということは、平衡に達するまでの時間が短くなるということでもあります。
アンモニア合成のグラフの横軸を時間にすると、下図のようになります。
確かに低温にしたほうが平衡に達したときのアンモニアの量が多いですが、平衡に達するまでの時間が長くなってしまいます。
それに対して、高温にすると平衡に達したときのアンモニアの量は少なくなりますが、平衡に達するまでの時間が短くなるので、短時間でアンモニアの合成を行い、それを何回も繰り返し行ったほうが、低温のときよりもアンモニアをたくさん回収することができるのです。
そのためハーバー・ボッシュ法ではアンモニアの合成を高温高圧で行います。
ハーバー・ボッシュ法は高温高圧
それでは、ハーバー・ボッシュ法についてまとめていきます。
まず、先ほども確認したようにハーバー・ボッシュ法は高温高圧で行います。
なぜなら1回1回の回収率は下がりますが、高温にして反応速度を上げて、平衡に達する時間までを短くし、繰り返し反応を行い、アンモニアを回収したほうが効率がいいからです。
ちなみに温度は500℃以上、圧力は300〜500atmで行います。1atmとは1大気圧つまり1.0×105パスカルのことで、その300倍から500倍の高圧で行います。
ハーバー・ボッシュ法の触媒
ただ、これだけではまだ工業化できるほどの効率を得ることができませんでした。
そこでハーバーさんが、四酸化三鉄(Fe2O4)を触媒にすると効率よくアンモニアを合成できることを発見したため、工業化への道が開けました。
アンモニアの合成の化学反応式(N2+3H2 ⇆ 2NH3)はとても単純なもので、材料も手に入り易いものです。しかし、それでも工業化へ至らなかったのは、最適な触媒が見つかっていなかったからです。その最適な触媒(Fe2O4)をハーバーさんが見つけることができたので、その名前が残っているのです。
このように名前が付いている反応は、触媒が何かが重要です。そのため、ハーバー・ボッシュ法に限らず、名前が付いている反応を学習するときは、触媒に特に注意するようにしましょう。
アンモニアの合成がなぜ重要なのか
最後に、合成したアンモニアを何に使っているかを確認します。
アンモニアは肥料となる
合成したアンモニアは、主に植物の肥料として利用しています。
植物の成長に特に重要な3つの元素があり、それを肥料の3要素と呼んでいます。その3つの元素とは窒素(N)とリン(P)とカリウム(K)です。そのうちの窒素を供給するためにアンモニアを利用しているのです。
空気中の窒素はそのまま使えない
しかし、窒素元素が必要であるのなら、空気中に大量に存在している窒素(N2)を使えばいいのではないかと思うかもしれません。
確かに窒素(N2)は空気の80%を占めており、そこらじゅうにいくらでもありますが、ほとんどの植物は窒素元素をこのN2の形で使うことができません。植物は窒素元素をアンモニウムイオンか硝酸イオンの形で利用します。そのため植物を育てるためには、これらの形で窒素元素を植物に与えないといけません。
ハーバー・ボッシュ法は人工的な窒素固定
ちなみに、空気中の窒素(N2)から窒素元素を植物が使える形にすることを窒素固定と言いますが、自然界でこれができるのは一部の細菌だけです。
しかし、ハーバー・ボッシュ法が確立したことで、人工的に窒素固定を行うことができるようになり、植物の成長に必要な肥料の大量生産が可能となりました。
ハーバー・ボッシュ法と人口爆発
その結果、食料となる植物の大量生産が可能となり、現在の人口を支えることができるようになったのです。
そのため、ハーバー・ボッシュ法はとても重要なのです。
しかし、ハーバーボッシュ法が発明されたのは、1906年と言われていますが、肥料の大量生産そして食料の大量生産が可能になったことで、これ以降の人口爆発の原因ともなっているという側面もあります。
いかがだったでしょうか。今回紹介したとおり、ハーバーボッシュ法は様々な点で重要な反応です。ぜひ復習しておいてください。
(3)解説授業の内容を復習しよう
(4)気体の平衡の解説一覧
①化学平衡の基本(化学平衡とは何か、可逆反応・不可逆反応、グラフの読み取り、平衡定数の定義、化学平衡の法則・質量作用の法則)
②平衡移動(ルシャトリエの原理)の解説(アルゴンを加える問題、二酸化窒素と四酸化二窒素の平衡の色の変化についても解説しています)
③気体の平衡の計算(化学平衡の法則(平衡定数=一定)から方程式を立てる、平衡定数の求め方についても解説しています)
④圧平衡定数の導出(濃度平衡定数・圧平衡定数とは何か、平衡定数の単位についても解説しています)
⑤圧平衡定数の計算の解説(気体の平衡を考えるために必要なものについても解説しています)
⑥ハーバー・ボッシュ法の解説(なぜ高温高圧で行うのか、なぜ人類にとって重要なのか)
(5)工業的製法の解説授業一覧
①アルミニウムの溶融塩電解(そもそも溶融塩電解とは何か、なぜ水を使ってはいけないのか、氷晶石、クラーク数などについても解説しています)
②「鉄の製錬」完全解説(原料と生成物、製錬の過程(反応式)、石灰石の役割、還元の過程、四酸化三鉄についても解説しています)
③「銅の電解精錬」完全解説(黄銅鉱から粗銅への製錬、粗銅が陽極で純銅が陰極の理由、不純物の酸化、陽極泥、計算問題の考え方、銅の電解精錬特有の式の立て方についても解説しています)
④ハーバー・ボッシュ法の解説(なぜ高温高圧で行うのか、なぜ人類にとって重要なのか)
(6)参考
☆化学の解説動画・授業動画一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学知識一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学知識テスト一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学の解説・授業・知識・演習問題一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)