ヨウ素滴定の解説(チオ硫酸イオンとは何か、ヨウ素デンプン反応についても解説しています)【化学計算の王道】

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(2)解説授業の原稿

今回はヨウ素滴定について解説します。ヨウ素滴定とはヨウ素の酸化還元反応を利用した滴定方法です。

チオ硫酸イオンとは何か

ヨウ素滴定を理解するために、まずチオ硫酸イオンとは何かについて確認します。

チオ硫酸イオンは化学式で書くとS2O32-となります。「チオ」とは硫黄Sのことで、硫酸イオンSO42-のOを1つS(チオ)に変えたものがチオ硫酸イオンなのです。

還元剤としてのチオ硫酸イオン

チオ硫酸イオンは酸化されやすく、還元剤としてはたらきます。

還元剤:2S2O32- → S4O62-+2e

これがチオ硫酸イオンの半反応式です。反応物はチオ硫酸イオンで、生成物はS4O62-(テトラチオン酸イオン)です。テトラが4で、チオンがSを表しています。

硫黄の酸化数の変化を見てみると、左辺の硫黄は1個あたり+2の酸化数で、右辺の硫黄は1個あたり+2.5の酸化数となっています。つまり硫黄1個あたり酸化数が0.5増えていて、硫黄は合計4個あるので0.5×4つまり全体として合計+2酸化数が増えているので、右辺に電子を2つ加えます。

なお、酸化数が小数になることはないので、実際はテトラチオン酸イオンの中の硫黄の酸化数は2.5ではありません。酸化数が3の硫黄が2つと酸化数2の硫黄が2つあり、平均して1個あたり2.5となっているのです。ただ半反応式を考えるだけであれば、このように1個あたり2.5と考えても問題ありません。

ヨウ素との酸化還元反応

では、なぜヨウ素滴定の話をするのにチオ硫酸イオンの知識が必要なのかというと、チオ硫酸イオンは酸化されやすいイオンであり、比較的酸化力の弱いヨウ素などの酸化剤とも酸化還元反応を起こすことができるので、ヨウ素の反応の相手としてチオ硫酸イオンが適しているからです。

ちなみに以下が酸化剤のヨウ素の半反応式です。

酸化剤:I2+2e → 2I

そして、先ほどのチオ硫酸イオンの半反応式と合わせると、チオ硫酸イオンとヨウ素の酸化還元反応のイオン反応式となります。

イオン反応式:S2O32-+I2→S4O62-+2I

なおチオ硫酸イオンの半反応式は少し特殊な部分もあるので、チオ硫酸イオンとヨウ素の酸化還元反応化学反応式は基本的に問題文で与えられています。

ヨウ素滴定の例題

それでは実際に問題を解きながらヨウ素滴定の流れを確認します。

塩素水0.10Lに十分量のヨウ化カリウム水溶液を加え、遊離したヨウ素を0.10mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定したところ3.0mLを要した。塩素水には何gの塩素が溶けていたかを求めてみましょう。ただし、塩素の分子量は71とします。

起きている反応の確認

この問題では2つの反応が起きています。

まず1つ目は塩素とヨウ化カリウムが反応してヨウ素が遊離する反応、

Cl2+2KI → I2+2KCl

そして2つ目はヨウ素とチオ硫酸ナトリウムの反応、

I2+2Na2S2O3 → 2NaI+Na2S4O6

この2つの反応が起きています。

反応①:塩素とヨウ化カリウムが反応してヨウ素が遊離する反応

1つ目の反応は酸化数が変化していることからもわかる通り、酸化還元反応となっています。この化学反応式を作る前のイオン反応式は以下のようになっています。

Cl2+2I → I2+2Cl

塩素とヨウ化物イオンが酸化還元反応して、ヨウ化物イオンは酸化されてヨウ素となり、塩素は還元されて塩化物イオンとなります。つまり、この反応においてはヨウ化物イオンは還元剤としてはたらき、塩素は酸化剤としてはたらいているのです。

ちなみにハロゲンの酸化力はフッ素が1番強く、次に塩素が強く、そして臭素、ヨウ素の順番になります。

F2>Cl2>Br2>I2

つまり原子番号が小さいほどハロゲンは酸化力が強くなります。

そのため塩素とヨウ素を比べると塩素の方が酸化力が強いので、塩素が酸化剤となりヨウ化物イオンが還元剤となるのです。

反応②:ヨウ素とチオ硫酸ナトリウムの反応

続いて2番目の反応ですが、こちらの反応は先ほど確認したヨウ素とチオ硫酸イオンの酸化還元反応のイオン反応式が元となっています。

この反応ではヨウ素は酸化剤としてはたらいています。

このように、ヨウ素は酸化力がそこまで強くないので酸化剤として使うためには、チオ硫酸イオンなど酸化されやすい還元剤が必要となるのです。

方程式を立てる

それでは、今回の問題で起きている2つの反応が確認できたので、あとは酸化還元反応の計算のやり方で方程式を立てて塩素の質量を求めていきます。

今回はイオン反応式や化学反応式があるので、その係数の比を使って方程式を立てていきます。

求める塩素の質量をw[g]として方程式を立てると、このようになります。

塩素の質量を塩素のモル質量で割って塩素の物質量となり、1番目の化学反応式を見ると、塩素とヨウ素の係数の比は1:1なので×1をすることでヨウ素の物質量に変換されます。そして、2番目の化学反応式を見ると、ヨウ素とチオ硫酸ナトリウムの係数の比が1:2なので×2をすることでチオ硫酸ナトリウムの物質量となります。

また、方程式なので右辺もチオ硫酸ナトリウムの物質量となるようにします。チオ硫酸ナトリウム水溶液のモル濃度に水溶液の体積をLにしたものをかけることで、溶質であるチオ硫酸ナトリウムの物質量になります。

これで両辺がチオ硫酸ナトリウムの物質量となったので方程式ができました。

今回はチオ硫酸ナトリウムの物質量で方程式を立てましたが、ヨウ素の物質量で方程式を立てることもできます。その場合左辺は×2がなく、右辺に×1/2倍をしてヨウ素の物質量とします。

あとは方程式を解いていくのですが、かけ算と割り算をすると106.5×10-4となり、有効数字が2桁となるように四捨五入をして、答えは1.1×10-2gとなります。

ヨウ素デンプン反応とヨウ素滴定

これで問題は解けたのですが、では結局ヨウ素滴定とは何だったのでしょうか。それを考えるためには、もう1つ知っておかないといけないことがあります。

今回、2番目の反応であるヨウ素とチオ硫酸ナトリウムの酸化還元反応を利用した滴定で用いる指示薬が、デンプン溶液であるということです。

デンプン溶液はヨウ素と反応して青紫色となります。いわゆる「ヨウ素デンプン反応」とよばれる反応です。この青紫色はとても濃い色で、しかもデンプン溶液はヨウ素と非常に敏感に反応します。つまりデンプン溶液を入れておけば、ヨウ素があるかどうかが分かりやすいということになります。

したがってヨウ素滴定とは何かというと、塩素水など色の変化がわかりにくいものを滴定するときに、直接塩素水を滴定するのではなく、いったんヨウ素に変換してからそのヨウ素の量を滴定し、そこからさらに戻って求めたいものの量を求めるという滴定方法なのです。

ポイントは塩素の反応だけでは色の変化がわかりにくいけど、ヨウ素に変換して滴定をすることで、ヨウ素デンプン反応の色の変化は分かりやすいので、反応の終点が分かりやすく正確に量を測定することができるということです。

ちなみにヨウ素デンプン反応の注意点として、ヨウ素デンプン反応を起こすのはヨウ素つまりI2があるときで、ヨウ化物イオンがあってもヨウ素デンプン反応は起きないので注意してください。

そのため水溶液中にヨウ素が残っている限りその溶液は青紫色となり、ヨウ素が還元されて全てヨウ化物イオンとなったとき溶液の青紫色が消えて、その時が反応の終点であると判断することができます。

(3)解説授業の内容を復習しよう

酸化還元反応の計算(応用)

(4)酸化還元反応(理論化学)の解説

酸化還元反応の計算(過マンガン酸イオンの色、滴定の終点についての解説もしています)

酸化還元反応の化学反応式の作り方(硫酸酸性の過マンガン酸カリウムと硫酸鉄(Ⅱ)の反応)

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(5)参考

酸化還元反応の解説・授業・知識・演習問題一覧

理論化学の解説動画・授業動画一覧

理論化学知識一覧

化学計算の王道(化学基礎・理論化学)

化学反応式の王道(理論化学・無機化学)

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