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(2)解説授業の原稿
今回は、古文における推量の助動詞、つまり、「む」「むず」「べし」「じ」「まじ」「らむ」「けむ」について解説します。
このように、古文の推量の助動詞には7つの種類があり、しかも、それぞれが複数の意味を持っているので、とてもややこしくなってしまいます。
ただ、古文において推量の助動詞はとても重要なので、整理して理解するようにしましょう。
推量の助動詞の関係
まずは、7つの推量の助動詞の関係を確認します。
むず=む<べし
む↔じ
べし↔まじ
らむ・けむ←「む」からの派生
古文において推量の助動詞は、「む」と「べし」が基本にあります。
「む」は弱い推量を表し、「べし」は強い推量を表します。つまり、あまり自信がないときは「む」を使い、ある程度確信があるときは「べし」を使います。
そして、「むず」は「む」と同じ意味になります。なぜなら、「むず」は元々「むとす」が変化してできた助動詞だからです。
次に「じ」ですが、「じ」は「む」を打ち消した意味になっています。つまり、「じ」は弱い打消の推量ということになります。
また、「まじ」は「べし」を打ち消した意味になっています。つまり、「まじ」は強い打消の推量ということになります。
そして、「らむ」「けむ」は「む」から派生した助動詞です。
「らむ」は「あらむ」が変化してできた助動詞なのですが、今ここにあるものから推量するということで、現在推量の意味になります。
また、「けむ」は「けり」と「む」がくっついてできた助動詞と考えると分かりやすく、過去推量の意味になります。ちなみに、「けり」は過去の助動詞です。
このように、古文の推量の助動詞を考えるときは、「む」と「べし」を中心とした関係を把握しておくと理解しやすくなります。
それでは、それぞれの助動詞の活用と接続と意味を確認してきます。
「む」の活用・接続・意味
まずは、「む」を確認します。
「む」の活用
「む」の活用は、
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
〇 | 〇 | む | む | め | 〇 |
このようになります。これは、四段型つまり「a・i・u・u・e・e」の活用となっています。活用表の〇は、その活用形の用例が存在しない、ということを表しています。
「む」の接続
次に接続ですが、「む」は未然形接続になります。
「む」「むず」といった弱い推量の助動詞や、あるいは、願望や仮定といったような意味の助動詞や助詞は未然形接続になる、ということは知っておいてもよいでしょう。
「む」の意味
そして、「む」の意味ですが、「む」には
- 推量(~だろう)
- 意志(~しよう)
- 勧誘(~するのがよい)
- 仮定(~なら)
- 婉曲(~のような)
- 適当(~したほうがよい)
この6つの意味があります。それぞれの頭文字をつないだ「スイカカエテ」という語呂合わせが有名です。
「む」はこの6つの意味を訳し分けていくのが重要です。
「む」の訳し分けのポイント
この訳し分けのポイントは2つあります。
①下に体言が来ているかどうかを確認します。「む」の下に体言が来ていれば、その「む」は基本的に婉曲の意味になります。
②下に体言が来ていないときは、主語を確認することです。
主語が一人称(わたし)のときは意志の意味になりやすく、主語が二人称(あなた)のときは勧誘の意味になりやすく、主語が三人称(わたし・あなた以外)ときは推量の意味になりやすいです。
ただし、この3つは必ずそうなるというわけではなく、そうなりやすいというだけで、そうならないときもあるので注意が必要です。
また、適当の意味は勧誘とほとんど同じです。
そして、仮定の意味はあまり出てこないので、とりあえず気にしなくても問題ありません。
※ちなみに、「む」が仮定の意味になるときは、婉曲の意味と同様に、下に体言が接続することが多い。
「むず」の活用
次に「むず」です。
「むず」は接続と意味が「む」と全く同じなので、活用だけ確認します。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
〇 | 〇 | むず | むずる | むずれ | 〇 |
「むず」の活用は、サ変型つまり「せ・し・す・する・すれ・せよ」の活用となっています。
「じ」の活用・接続・意味
「じ」の活用
次は「じ」です。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
〇 | 〇 | じ | じ | じ | 〇 |
「じ」はこのように活用します。全く変化しない特殊型なので覚えやすいと思います。
「じ」の接続
そして、接続は未然形接続です。弱い推量の助動詞の「む」を打ち消したものが「じ」なので、「む」と同じ未然形接続になります。
「じ」の意味
そして、「じ」の意味ですが、「む」を打ち消したものになります。
ただ、打消勧誘や打消婉曲といったような意味は見られないので、
- 打消推量(~ないだろう)
- 打消意志(~ないつもりだ)
この2つの意味しかありません。こちらも「む」と同様に、主語が一人称か三人称かが訳し分けの目安になります。
「べし」の活用・接続・意味
次は「べし」です。
「べし」の活用
「べし」の活用は形容詞型で、
活用の種類 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
本活用 | べく | べく | べし | べき | べけれ | 〇 |
補助活用 | べから | べかり | 〇 | べかる | 〇 | 〇 |
といったように活用が2つに分かれています。上の活用のことを本活用、下の活用のことを補助活用といいます。
「べし」のように本活用と補助活用がある活用語は、この2つを区別することが重要です。なぜなら、「本活用と補助活用がある活用語の下に助動詞が接続するときは、その活用語は補助活用になる」というルールがあり、識別するときに重要な手がかりになるからです。
「べし」の接続
次に接続ですが、「べし」の接続は終止形接続(ただしラ変には連体形接続)となります。
「べし」のような強い推量の助動詞、あるいは、推定の意味の助動詞は、終止形接続(ただしラ変には連体形接続)になるということは知っておきましょう。
「べし」の意味
そして「べし」の意味は、
- 推量(~だろう)
- 意志(~しよう)
- 可能(~できる)
- 当然(~のはずだ)
- 命令(~しなさい)
- 適当(~するのがよい)
- 義務(~しなければばらない)
- 予定(~することになっている)
この8つの意味があります。前から6つ目までの意味の頭文字をつなげて「スイカトメテ」といった語呂合わせが有名です。
ただ、「スイカトメテ」の語呂合わせだと義務と予定の意味が入らなくなってしまいます。義務や予定の意味になることもたまにあり、できればこの2つの意味も覚えておきたいです。そこで、「スイカトメテ」を覚えた後に義務と予定の意味を追加で覚えるか、「ギ」と「ヨ」を加えて「カイスギトメテヨ」といった語呂合わせで8つの意味を覚えるようにしましょう。
また、「べし」には婉曲の意味はないので注意しましょう。
そして、この8つの意味の訳し分けですが、「む」のように目安となるものはあまりないので、基本的には文脈に最も合う意味を当てはめていかないといけません。場合によっては、2つ以上の意味が当てはまるときもあります。
ちなみに、8つの意味の中で一番出てくる意味は、「~はずだ」と訳す当然です。そのため、文章中で「べし」を見つけたときは、とりあえずまず当然(~のはずだ)と訳してみるとよいでしょう。
「まじ」の活用・接続・意味
続いて、「まじ」です。
「まじ」の活用
「まじ」も形容詞型の活用で、
活用の種類 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
本活用 | まじく | まじく | まじ | まじき | まじけれ | 〇 |
補助活用 | まじから | まじかり | 〇 | まじかる | 〇 | 〇 |
このような活用をします。「まじ」も本活用と補助活用があるので区別して覚えるようにしましょう。
「まじ」の接続
次に接続ですが、「まじ」の接続も終止形接続(ただしラ変には連体形接続)になります。
「まじ」は強い推量の助動詞の「べし」を打ち消したものなので、「べし」と同じ接続になります。
「まじ」の意味
そして、「まじ」の意味は、
- 打消推量(~ないだろう)
- 打消意志(~ないつもりだ)
- 不可能(~できない)
- 打消当然(~はずがない)
- 禁止(~してはいけない)
- 不適当(~しないほうがよい)
この6つの意味があります。
「まじ」は「べし」を打ち消したものなので、「べし」の「スイカトメテ」の意味を打ち消したものであると考えるようにするとよいでしょう。つまり、推量を打ち消して打消推量(~ないだろう)、意志を打ち消して打消意志(~ないつもりだ)、可能を打ち消して不可能(~できない)、当然を打ち消して打消当然(~はずがない)、命令を打ち消して禁止(~してはいけない)、適当を打ち消して不適当(~しないほうがよい)となっています。
「らむ」の活用・接続・意味
次は「らむ」です。
「らむ」の活用
「らむ」の活用は、
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
〇 | 〇 | らむ | らむ | らめ | 〇 |
このような四段型の活用です。「む」の活用の上に「ら」を付けたものと考えるとよいでしょう。
「らむ」の接続
接続は、終止形接続(ただしラ変には連体形接続)です。
「らむ」は現在推量、つまり、目の前で起きていることを推量するので、強い推量の分類に入ると考えます。
「らむ」の意味
「らむ」の意味は、
- 現在推量(~しているだろう)
- 現在の婉曲(~しているような)
- 現在の原因推量(~しているのだろう)
- 現在の伝聞(~しているという)
このような意味がありますが、現在推量と現在の婉曲の意味だけを覚えておけば、基本的に問題ありません。
「む」の婉曲の意味と同様に、「らむ」の下に体言が接続した場合は、基本的に現在の婉曲の意味になるということは知っておきましょう。
「けむ」の活用・接続・意味
最後に「けむ」です。
「けむ」の活用
「けむ」の活用も四段型で、
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
〇 | 〇 | けむ | けむ | けめ | 〇 |
このように活用します。「む」の活用の上に「け」が付いたものと考えるとよいでしょう。
「けむ」の接続
次に接続ですが、「けむ」の接続は連用形接続です。「けむ」は過去推量の助動詞ですが、過去の助動詞「けり」と同じ連用形接続になっています。
「けむ」の意味
続いて、「けむ」の意味ですが、
- 過去推量(~しただろう)
- 過去の婉曲(~したような)
- 過去の原因推量(~したのだろう)
- 過去の伝聞(~したという)
このような意味がありますが、過去推量と過去の婉曲の意味だけを覚えておけば問題ありません。
「けむ」も「む」「らむ」と同様に、「けむ」の下に体言が接続した場合は、過去の婉曲の意味になるということは知っておきましょう。
推量の助動詞を例文で確認しよう
それでは、推量の助動詞「む・むず・じ・らむ・けむ・べし・まじ」の例文をいくつか確認してみます。
(1)助動詞「む」「むず」
まずは、「む」の例文を確認します。
推量の助動詞「む」には、推量、意志、勧誘、仮定、婉曲、適当の6つの意味があります。「スイカカエテ」という語呂合わせが有名です。
では、「む」をどのように訳し分けていくのか、例文を使って確認してみましょう。
①我、歌詠まむ。(私が歌を詠もう。)
まずは、この例文です。
この例文の「む」は意志の意味になっており、「~しよう」と訳します。
「む」の訳し分けのポイントは主語です。一人称(わたし)が主語のときは、意志の意味になりやすいです。
②汝、帰り給はむ。(あなたはお帰りなさるのがよい。)
次に、この例文を確認します。
この例文の「む」は勧誘の意味になっており、「~するのがよい」と訳します。
ポイントはやはり主語で、主語が二人称(あなた)になっているときは、勧誘の意味になりやすいです。
ちなみに、今回「給ふ」という尊敬語を使っているので、「給はむ」は「~なさるのが良いでしょう」と訳しています。
- 意味で注意すべき敬語「参る・奉る・侍り・候ふ・聞こゆ・給ふ」(二種類の意味を持つ敬語、謙譲語の「給ふ」を使うときの条件についても解説しています)
- 敬意の方向(二方向の敬意、二重敬語(最高敬語)、絶対敬語、自敬表現についても解説しています)
③花咲かむ。(花が咲くだろう。)
続いて、この例文です。
この例文の「む」は推量の意味になっており、「~だろう」と訳しています。
やはり、見るべき場所は主語で、主語が三人称(「わたし」「あなた」以外)のときは、推量の意味になりやすいです。
このように、主語が一人称の場合は意志の意味に、主語が二人称の場合は勧誘の意味に、主語が三人称の場合は推量の意味になりやすいということは知っておきましょう。ただし、これらは「そうなりやすい」というだけで、「必ずそうなる」わけではないので注意しましょう。
④花の咲かむときに、来よ。(花が咲くようなときに、来てください。)
また、「む」の下に体言(名詞)が来るときは、基本的に婉曲の意味になるということも重要です。「む」が婉曲になるときは「~のような」と訳します。
- 婉曲の意味を持つ助動詞:「む」「むず」「らむ」「けむ」「めり」
- 助動詞「めり」についてはこちら→推定の助動詞「らし」「なり」「めり」の解説(撥音便・撥音便無表記についても解説しています!)
「む」のように婉曲の意味をもつ助動詞の下に体言が来たときは、基本的にその助動詞は婉曲の意味になるということは覚えておきましょう。ちなみに、「婉曲」とは、はっきり言うのではなく、遠回しに言おうとすることです。
助動詞「む」には、この他にも適当(~するほうがよい)と仮定(もし~ならば)の意味があります。適当は勧誘とほとんど同じ意味です。仮定の意味はあまり出てこないので、二次試験で古文が必要ない方は、あまり気にしなくてもいいです。
- ちなみに、助動詞「む」が仮定の意味になるときは、下に体言が来ることが多い。
また、助動詞の「むず」は「む」と同じ意味なので、「むず」の訳し分けも「む」と同じように考えるようにしてください。
- 「むず」はもともと「むとす」が縮まってできた言葉。
(2)助動詞「じ」
続いて、「じ」の例文を確認してみます。
助動詞の「じ」には打消推量と打消意志の2つの意味があります。この訳し分けのポイントは、「む」のときと同様に主語を見ます。
⑤花なむ咲かじ。(花は咲かないだろう。)
この例文のように主語が三人称のときは、「~しないだろう」と訳す打消推量の意味になりやすいです。
⑥我、歌詠まじ。(私は歌を詠むつもりはない。)
そして、この例文のように主語が一人称のときは、「~するつもりはない」と訳す打消意志の意味になりやすいです。
(3)助動詞「らむ」「けむ」
次は「らむ」の例文です。
助動詞「らむ」は現在推量と現在の婉曲、現在の伝聞の3つの意味があります。訳し分けのポイントは、下に体言が来ているか、来ていないかです。
⑦音にも聞きつらむ。(きっと噂に聞いているだろう。)
下に体言が来ていない場合は、「~しているだろう」と訳す現在推量の意味になります。
ちなみに、「音に聞く」は「うわさに聞く」という意味の重要表現で、「らむ」の上の「つ」は完了・強意の助動詞「つ」の終止形で、「きっと~」と訳す強意の意味になっています。完了・強意の助動詞「つ」「ぬ」は、「む」「らむ」「べし」の上に来たときは、「きっと~」と訳す強意の意味になるということは知っておきましょう。
⑧花の咲くらむ所へ行かむ。(花が咲いているようなところへ行こう。)
そして、「らむ」の下に体言が来ている場合は、基本的に「~しているような」と訳す現在の婉曲の意味になります。「む」のときでも確認しましたが、婉曲の意味を持つ助動詞は、下に体言が来たときは、基本的に婉曲の意味になります。
ちなみに、文末の「む」は推量の助動詞「む」の終止形で、今回は意志(~しよう)の意味で訳しています。
また、過去推量の助動詞「けむ」も「らむ」と同様の訳し分けをします。つまり、「けむ」の下に体言が来ていないときは、「~しただろう」と訳す過去推量の意味で、「けむ」の下に体言が来たときは、「~したような」と訳す過去の婉曲の意味になります。
⑨かぐや姫を見つけたりけむ竹取の翁(かぐや姫を見つけたという竹取の翁)
さらに、「らむ」と「けむ」には「~という」と訳す伝聞の意味があるので、そちらも確認しておきます。
「らむ」と「けむ」が伝聞の意味になるときは、下に体言が来ることが多いです。そのため、「らむ」と「けむ」の下に体言が来ているときは、まず「~のような」という婉曲の意味で訳してみて、不自然なようなら「~という」と伝聞で訳すようにしましょう。
この例文では、「けむ」の下に体言が来ていますが、「~したような」という過去の婉曲では少し不自然なので、「~したという」と過去の伝聞で訳しています。
- 伝聞・推定の助動詞「なり」についてはこちら→推定の助動詞「らし」「なり」「めり」の解説(撥音便・撥音便無表記についても解説しています!)
(4)助動詞「べし」
続いて、「べし」の例文を確認します。
助動詞「べし」には、推量、意志、可能、当然、命令、適当、予定、義務の8つの意味があります。「スイカトメテ」という語呂合わせが有名ですが、これでは予定と義務の意味が入らないので注意しましょう。
「べし」の訳し分けには、あまりパターンやポイントなどはないので、その文脈に合う意味を当てはめるようにしましょう。
⑩船に乗るべきところにて、漢詩作りなどしけり。(船に乗る予定のところで漢詩作りなどした。)
まずはこの例文です。
この文脈では「~する予定だ」と訳す予定の意味が一番当てはまります。予定の他にも、「乗るはずのところ」と当然の意味で訳すこともできます。
このように、「べし」は複数の意味が当てはまることもあります。
ちなみに、「べし」には婉曲の意味がないので、下に体言が来ても「~のような」と婉曲の意味で訳すことはないので、注意しましょう。
ついでに、この例文に含まれる助詞と助動詞を確認すると、「にて」は格助詞で「~で」と訳し、「けり」は過去の助動詞で「~した」と訳します。
- 格助詞「が・の・より・にて・して・とて・を」の意味と注意点(同格の「の」、比喩の「の」、格助詞「より」の重要な意味、「をば」の訳し方を例文を使って解説しています)
- 過去の助動詞「き」「けり」の解説(「~せば……まし」の構文についても解説しています)
⑪火をつけて燃やすべきよし仰せ給ふ。(火をつけて燃やしなさいということを命令しなさる。)
次はこの例文です。
この例文の「べし」は「~しなさい」と訳す命令の意味が一番当てはまります。
「よし」という単語は「趣旨」という意味や「~ということ」という意味の単語で、「仰す」は「命令する」という意味の動詞であるということを考えると、この「べし」は「~しなさい」と訳す命令以外では訳せないと思います。
⑫つひに亡びぬべし。(最後にはきっと滅ぶのだろう。)
この例文の「べし」は、「~だろう」と訳す推量の意味が一番当てはまります。
「べし」の上の「ぬ」は完了・強意の助動詞「ぬ」の終止形で、今回は「きっと~」と訳す強意の意味になっています。先ほども確認しましたが、完了・強意の助動詞「つ」「ぬ」は、「む」「らむ」「べし」が下に接続したときは、強意の意味になるということは知っておきましょう。
(5)助動詞「まじ」
最後に「まじ」の例文を確認します。
「まじ」には打消推量、打消し当然、禁止、不適当、打消意志、不可能などの意味がありますが、「べし」の打消の意味であると考えるようにしましょう。
「まじ」も「べし」と同様に文脈に一番当てはまるものを選んで訳していきます。
⑬冬枯れのけしきこそ、秋にはをさをさ劣るまじけれ。(冬枯れの景色は、秋の景気にはほとんど劣らないだろう。)
この例文の「まじ」は「~ないだろう」と訳す打消推量の意味が一番当てはまります。打消推量の他に、「~のはずがない」と訳す打消当然の意味でも良いでしょう。
このように「まじ」も複数の意味が当てはまることがあります。
ちなみに「をさをさ」は打消の単語を伴って「ほとんど~ない」という意味になり、係助詞の「こそ」があるので、係り結びの法則により、文末の「まじ」は已然形の「まじけれ」になっています。
⑭妻といふものこそ、男の持つまじきものなれ。(妻というものは、男が持たないほうがよいものである。)
最後にこの例文です。
この例文の「まじ」は「~しない方がよい」という不適当の意味が当てはまります。この文脈では不適当以外の意味では訳すことができないと思います。
ちなみに、文末の「なれ」は「~である」と訳す断定の助動詞「なり」で、係助詞「こそ」があるので已然形の「なれ」になっています。
- 断定の助動詞「なり」「たり」の意味と接続(「なり」の存在の意味、断定の「なり」の連用形「に」の使い方についても解説しています)
- 係助詞「ぞ・なむ・や・か・こそ・は・も」の用法と係助詞を使った表現(係り結びの法則、結びの省略、結びの消去(消滅、流れ)についても解説しています)
「べし」と「まじ」は今回の例文で出てきた意味以外になることも多いので、ぜひ様々な例文で訳す練習をしてみてください。
(3)解説授業の内容を復習しよう
①推量の助動詞「む・むず・じ・らむ・けむ・べし・まじ」文法事項テスト
②補助活用についての確認テストはこちら→補助活用確認テスト
(4)助動詞(古文)の解説授業一覧
①助動詞(古文)の接続は、まず3つに分類すると覚えやすくなります!(未然形接続、終止形接続(ラ変には連体形接続)、連用形接続)
②打消の助動詞「ず」の解説(補助活用が文法的に重要である理由についても解説しています)
③過去の助動詞「き」「けり」の解説(「~せば……まし」の構文についても解説しています)
④完了の助動詞「つ」「ぬ」「たり」「り」の接続と意味(「つ」「ぬ」が強意の意味になるパターン、「たり」「り」が存続の意味になりやすいとき、「つ」「ぬ」の並列の意味についても解説しています)
⑤推量の助動詞「む・むず・じ・らむ・けむ・べし・まじ」の活用・接続・意味(訳し分けのポイント、婉曲の意味についても解説しています)
⑥推定の助動詞「らし」「なり」「めり」の解説(撥音便・撥音便無表記についても解説しています!)
⑦断定の助動詞「なり」「たり」の意味と接続(「なり」の存在の意味、断定の「なり」の連用形「に」の使い方についても解説しています)
⑧受身・尊敬・可能・自発の助動詞「る」「らる」の意味と訳し分け
⑨使役・尊敬の助動詞「す」「さす」「しむ」の意味と訳し分け(二重敬語(最高敬語)についても解説しています)
⑩反実仮想の助動詞「まし」の意味と訳し分け(反実仮想・ためらいの意志・反実の願望の訳し分けについて解説しています)
(5)参考
☆古文文法の解説動画・授業動画一覧(基礎知識、用言、係り結びの法則、助動詞、助詞、識別、敬語、和歌、主体の判別)
☆古文文法のすべて(基礎知識、用言、係り結びの法則、助動詞、助詞、識別、敬語、和歌、主体の判別)
☆テーマ別に古文単語をまとめています→古文単語