反実仮想の助動詞「まし」の意味と訳し分け(反実仮想・ためらいの意志・反実の願望の訳し分けについて解説しています)【古文文法のすべて】

(1)解説授業動画

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(2)解説授業の原稿

「まし」は未然形接続で、基本的に反実仮想の意味になるのですが、他にも、ためらいの意志や反実の願望といった意味を持っています。

反実仮想

まずは「もし~ならば……だろうに」と訳す反実仮想の意味を確認しましょう。英語でいうところの仮定法の文法に相当するもので、以下のように、決まった形の構文を作ります。

  1. ~ましかば……まし
  2. ~ませば……まし
  3. ~せば……まし
  4. ~未然形+ば……まし

この4つの反実仮想の構文は必ず覚えましょう。

この構文で使われている「ば」は、順接仮定条件の接続助詞の「ば」であり、未然形接続であるということは知っておきましょう。

また、「ましか」や「ませ」は、「まし」の未然形であり、「~せば…まし」の「せ」は、過去の助動詞「き」の未然形であるということも知っておきましょう。

ためらいの意志

続いて、この反実仮想の構文がなく、疑問語を伴った場合、「まし」は「~しようかなあ」と訳す、ためらいの意志になります。

疑問語とは、「誰」「いづれ」「いかに」「や」「か」などの言葉のことです。特に、疑問・反語の係助詞である「や」や「か」を伴ったときも、「まし」はためらいの意志になるということは、忘れないようにしましょう。

反実の願望

そして、反実仮想の構文がなく、疑問語もないとき、「まし」は「~ならいいのに」と訳す、反実の願望となります。

つまり、「まし」のこの3つの意味の訳し分けの仕方をまとめると、

  1. ~ましかば……まし
  2. ~ませば……まし
  3. ~せば……まし
  4. ~未然形+ば……まし

の形になっていれば反実仮想で訳し、この4つの構文がなく疑問語があれば、ためらいの意志で訳し、この4つの構文がなく疑問語もない場合は反実の願望で訳します。

例文で確認

それでは反実仮想の助動詞「まし」の例文をいくつか確認します。

反実仮想の助動詞「まし」は「もし~ならば……だろうに」といった反実仮想の構文で使うことが多いのですが、これ以外にも、ためらいの意志や反実の願望といったような意味があるので、今回はその訳し分けを確認します。

①世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし(もし世の中に全く桜がなかったならば、春の人々の心はのどかだろうに。)

まず1つ目の例文は「~せば……ばし」の反実仮想の構文が使われているので、「もし~ならば……だろうに」と訳します。

反実仮想の構文は、「~ましかば……まし」「~ませば……まし」「~せば……まし」「~未然形+ば……まし」の4つを覚えておきましょう。

②これに何を書かまし。(これに何を書こうかなあ。)

続いて2番目の例文です。

こちらの「まし」は「~しようかなあ」と訳すためらいの意志になります。なぜこの「まし」がためらいの意志になるのかと言うと、「何」という疑問語があるからです。

このように、反実仮想の構文がなく疑問語があるときは、「まし」はためらいの意志になります。ためらいの意志は「~しようかなあ」や「~しようかしら」と訳します。

③尼にやならまし。(尼になろうかなあ。)

続いて、こちらの例文も「まし」はためらいの意志になっています。なぜなら反実仮想の構文がなく、「や」という疑問語があるからです。

これらのように疑問語とは、「何」「いづれ」などの疑問の代名詞や、「いかが」などの疑問の副詞や、「や」「か」といった疑問の係助詞のことです。

④桜花咲かまし。(桜花が咲けばいいのに。)

最後に、この例文の「まし」は反実の願望となります。反実の願望は「~すればいいのに」と訳します。

なぜこの「まし」が反実の願望になるのかというと、反実仮想の構文がなく、疑問語もないからです。

以上をまとめると、①反実仮想の構文があるときは反実仮想の意味になり、②反実仮想の構文がなく疑問語があるときはためらいの意志になり、③反実仮想の構文も疑問語もない場合は反実の願望で訳す、といったように訳し分けていきましょう。

(3)解説授業の内容を復習しよう

反実仮想の助動詞「まし」の確認テスト

(4)助動詞(古文)の解説授業一覧

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(5)参考

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助動詞(古文)の解説・テスト一覧

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