意味で注意すべき敬語「参る・奉る・侍り・候ふ・聞こゆ・給ふ」(二種類の意味を持つ敬語、謙譲語の「給ふ」を使うときの条件についても解説しています)【古文文法のすべて】

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敬語はまず、種類(尊敬語か謙譲語か丁寧語か)と意味を覚えるところから始まります。今回は、その中で特に注意したいものを解説します。

「参る」「奉る」

まずは、「参る」と「奉る」です。この2つの敬語で注意すべき点は、謙譲語の意味と尊敬語の意味の2つを持っているという点です。

「参る」は謙譲語の場合、「参上する」や「差し上げる」といった意味になり、尊敬語では、「召し上がる」といった意味になります。

また、「奉る」は、謙譲語の場合は「差し上げるといった意味になり、尊敬語の場合は、「召し上がる」や「お召しになる」や「お乗りになる」といった意味になります。

このように、「参る」と「奉る」は謙譲語の意味だけでなく、「食べる」や「飲む」、「着る」「乗る」といった日常の動作を表す尊敬語となることがあります。ただし、文章中に出てくるときは、ほとんど謙譲語なので、基本的には謙譲語で訳し、違和感がある場合は、尊敬語で訳してみるといったように対応しましょう。

また、「奉る」の上に動詞が来て、補助動詞として使っている場合は、必ず「~申し上げる」と訳す謙譲語になるということは知っておきましょう。

※「参る」には補助動詞としての用法はない。(「参らす」には補助動詞としての用法がある。)

「侍り」「候ふ」

続いて、「侍り」「候ふ」です。「侍り」「候ふ」にも、2種類の意味があります。

「ある」と「いる」の丁寧語の「あります」「おります」、そして、「仕える」の謙譲語の「お仕え申し上げる」、この2種類の意味を持っています。

ただ、「侍り」「候ふ」は文章中ではほとんど丁寧語なので、訳す時は基本的に丁寧語で訳して、違和感がある場合は謙譲語で訳してみる、というように対応しましょう。

また、「侍り」「候ふ」は、上に動詞を伴う補助動詞の場合は、必ず「です」「ます」と訳す丁寧語になります。

「聞こゆ」

次に、「聞こゆ」です。「聞こゆ」には敬語ではない一般動詞の用法と、謙譲語の2種類の用法があります。

一般動詞の場合は「聞こえる」や「噂される」といったような意味になり、謙譲語の場合は、「言う」の謙譲語の「申し上げる」といった意味になります。「聞こゆ」の場合は、どちらの意味もよく見られるので、主体などを確認して訳し分けるようにしましょう。

また、「聞こゆ」は、一般動詞に補助動詞の用法がないので、補助動詞であれば、「~申し上げる」と訳す謙譲語に必ずなります

「給ふ」

最後に、「給ふ」について解説します。「給ふ」にも、尊敬語と謙譲語の2種類の意味あるのですが、「給ふ」は尊敬語と謙譲語で動詞の活用が異なります。

敬語の種類活用未然形連用形終止形連体形已然形命令形
尊敬語四段活用給は給ひ給ふ給ふ給へ給へ
謙譲語下二段活用給へ給へ給ふる給ふれ

「は・ひ・ふ・ふ・へ・へ」といった四段活用の場合は尊敬語となり、「へ・へ・○・ふる・ふれ・○」といった下二段活用の場合は謙譲語となります。ただし、下二段活用の「給ふ」は、終止形と命令形で使うことはありません。そのため、「たまへ」となっているときに、訳し分けが必要となってくる場合があります。

謙譲語の「給ふ」を使うための3つの条件

文章中の「給ふ」は、ほとんど四段活用で、下二段活用の謙譲の「給ふ」になることは、ごくまれです。なぜなら謙譲の「給ふ」を使うためには、下の3つの条件がそろってないといけないからです。

①手紙文や会話文などの中でのみ使う。
②主語は1人称(わたし)
③「思ふ」や「知る」や「見る」や「聞く」など、知覚を表す動詞にしか接続できない(補助動詞の用法のみ)

1つ目の条件は、手紙文や会話文などの中でのみ謙譲の「給ふ」を使うことができるという条件です。そのため、地の文の「給ふ」はすべて尊敬の「給ふ」となります。

2つ目の条件は、主語は1人称、つまり「わたし」でなければいけないということです。

そして、3つ目の条件は、「思ふ」や「知る」や「見る」や「聞く」など、知覚を表す動詞にしか接続できないということです。

つまり、謙譲の「給ふ」には本動詞の用法がなく、補助動詞の用法のみということになります。そのため、上に動詞を伴わない本動詞の「給ふ」であれば、必ず尊敬語になる、ということになります。

また、謙譲の「給ふ」を訳すときは、「~です」「~ます」といったように、丁寧語のように訳すことになっています。

このように謙譲の「給ふ」は、使うための条件が厳しく、ほとんど使われないので、文章中の「給ふ」は基本的に尊敬語であると考えても問題ありません。

「参る」「奉る」の意味を例文で確認

それでは、敬語の種類と意味を例文を使って確認します。

まずは、「参る」と「奉る」の例文を確認します。

「参る」と「奉る」は基本的に謙譲語として使いますが、尊敬語として使うこともあるので注意が必要です。

①清涼殿へ参る。(清涼殿へ参上する。)

この例文のように、場所とともに「参る」を使った場合は、「~へ参上する」という意味の謙譲語になります。ちなみに、「清涼殿」とは天皇が普段いる建物のことです。

②御果物ばかり参る。(果物ばかり召し上がる。)

①の例文のように「参る」は場所とともに使って、「行く」や「来」の謙譲語として使うことが多いのですが、食べ物や飲み物とともに使った場合は、「召し上がる」という意味の尊敬語として使うこともあるので注意が必要です。

この場合の「参る」は「食ふ」「飲む」の尊敬語になっています。

③帝に文奉る。(帝に手紙を差し上げる。)

続いて「奉る」です。

「奉る」も基本的に謙譲語として使い、この例文のように「差し上げる」という意味になります。この場合の「奉る」は「与ふ」の謙譲語になります。

④御直衣など奉る。(直衣などをお召しになる。)

③の例文のように「奉る」も謙譲語で使うことが多いのですが、この例文のように着物などとともに使うと「お召しになる」という意味の尊敬語になります。

ちなみに「御直衣」は「おなおし」と読み、「直衣」とは天皇や貴族の日常で着る服のことです。つまり、この場合の「奉る」は「着る」の尊敬語になっています。

また、「奉る」にも「食ふ」「飲む」の尊敬語である「召し上がる」と言う意味があります。つまり、「参る」と「奉る」には日常で行う動作の尊敬語の意味があるのです。

※「奉る」には、「お召しになる」「召し上がる」の意味の他に、「お乗りになる」(「乗る」の尊敬語)の意味もある。

⑤天の羽衣うち着せ奉りつ。(天の羽衣を着せ申し上げた。)

続いて、この例文ですが、この例文の「奉る」は動詞に接続しており、補助動詞として使っています。

補助動詞とは、動詞に接続することにより、接続した動詞に意味を添える働きをする動詞のことです。

ちなみに①~④の「参る」「奉る」のように補助動詞の使い方をしていない動詞のことを、本動詞と言います。つまり、動詞にくっついていれば補助動詞であり、動詞がくっついていなければ本動詞ということになります。

そして「奉る」で重要なことは、「奉る」を補助動詞で使った場合は、必ず謙譲の意味になるということです。

「奉る」は補助動詞であれば、接続している動詞に「~申し上げる」という意味を添える働きをします。つまり、「奉る」は補助動詞で使った場合は、尊敬の意味になることはないということにもなります。

ちなみに、「天の羽衣」とは天人の衣装のことで、文末の「つ」は完了の助動詞「つ」の終止形なので「~した」と訳します。

「侍り」「候ふ」の意味を例文で確認

次は「侍り」と「候ふ」の例文を確認します。

「侍り」と「候ふ」はほとんど同じ意味の敬語で、基本的には丁寧語になりますが、謙譲語になることもあるので注意が必要です。

①碁盤侍りや。(碁盤はありますが。)

②子どもあまた候ふ。(子どもがたくさんおります。)

まずは①と②の例文を確認すると、どちらの文でも「侍り」と「候ふ」は本動詞として使っており、「あります」や「おります」といったような丁寧語になっています。

このように「侍り」と「候ふ」は、本動詞のときは基本的に「あり」や「居(を)り」の丁寧語になります。

③御前に候はせ給ふ女房たち(御前にお仕え申し上げなさっている女房たち)

ただ③の例文のように、「お仕え申し上げる」や「お控え申し上げる」といったような意味の謙譲語になることもあります。

「女房」のように貴族や身分の高い人に使える立場の人が出てきたときは、「侍り」「候ふ」が謙譲語の意味になる可能性があるので注意しましょう。

ちなみに、「女房」とは朝廷に仕える女官のことです。

④許され侍らば、見侍らむ。(許されますならば、見ましょう。)

また、この例文のように「侍り」「候ふ」が補助動詞として使われた場合は、必ず「~です」「~ます」といった丁寧語になります。

「侍り」「候ふ」が補助動詞の場合は謙譲の意味になることはないので、「侍り」「候ふ」が本動詞のときだけ丁寧語か謙譲語かを考えるようにしましょう。

「聞こゆ」の意味を例文で確認

次は、「聞こゆ」の例文です。

「聞こゆ」には、敬語ではない一般動詞としての用法と、敬語としての謙譲語の用法の2つがあります。

①名高く聞こえたるところなり。(評判が高く噂されているところである。)

まずは一般動詞としての用法です。

「聞こゆ」は一般動詞としては「聞こえる」や「噂される」という意味になります。

ちなみに、「名高し」は「有名な」や「評判が高い」という意味の形容詞で、「たる」は完了・存続の助動詞「たり」の連体形で、今回は「~している」と訳す存続の意味です。また、完了・存続の助動詞「たり」は連用形接続です。

さらに、文末の「なり」は断定の助動詞「なり」の終止形で、「~である」と現代語訳します。

②殿に聞こえけり。(殿に申し上げた。)

③いとあはれと思ひ聞こえ給ふ。(たいそう趣深いとお思い申し上げなさる。)

次に、「聞こゆ」の敬語としての用法を確認します。「聞こゆ」は、敬語として使った場合は、謙譲語になります。

本動詞の場合は「言ふ」の謙譲語で「申し上げる」と現代語訳し、動詞に接続する補助動詞の場合は、「~申し上げる」という謙譲語の意味を動詞に添えます。

このように「聞こゆ」は、本動詞の場合は一般動詞か謙譲語かの判断が必要ですが、補助動詞の場合は必ず謙譲語の意味になります。

「給ふ」の意味を例文で確認

それでは、「給ふ」の例文を確認します。

「給ふ」はほとんど尊敬語として使いますが、ごくまれに謙譲語として使うことがあります。

尊敬語の「給ふ」は四段活用で、謙譲語の「給ふ」は下二段活用になるので、多くは活用で見分けることができます。

また、謙譲語の「給ふ」を使うためには3つの条件があり、その条件を満たしているかどうかで見分けることもできます。

謙譲語の「給ふ」を使うための3つの条件

①手紙文や会話文などの中でのみ使う。
②主語が1人称(わたし)
③「思ふ」「知る」「見る」「聞く」といった動詞にしか接続しない。(補助動詞の用法でしか使わない。)

この3つの条件を満たしていないと謙譲語の「給ふ」は使えません。

これは言い換えると、この条件を1つでも満たしていないときは、必ず尊敬語になるということにもなります。

それでは例文で確認していきます。

①多くの銭を給ふ。(多くのお金をお与えなさる。)

①の例文の「給ふ」は「お与えになる」という意味の尊敬語になります。

この「給ふ」は終止形なので四段活用と下二段活用のどちらの可能性もありそうですが、謙譲語の「給ふ」は終止形と命令形の用例が存在しないので、「給ふ」の形になっていれば必ず尊敬語の「給ふ」になります。

敬語の種類活用未然形連用形終止形連体形已然形命令形
尊敬語四段活用給は給ひ給ふ給ふ給へ給へ
謙譲語下二段活用給へ給へ給ふる給ふれ

また、地の文であるということ、さらには、本動詞であるということも謙譲語であることを否定しています。

ちなみに尊敬語の「給ふ」は本動詞で使うと、「与ふ」の尊敬語になります。

②-1「内々に思ひ給ふるさまを奏し給へ」(「私が心の中で思っておりますことを申し上げなさってください」)の「給ふる」の敬語の種類

次にこの例文です。

この例文は会話文になっているので、謙譲語の「給ふ」が使われる可能性があります。

さらに1つ目の「給ふ」は、「思ふ」に接続しているので謙譲語の「給ふ」を使う3つ目の条件も満たしています。

そして、活用を見てみると「給ふる」となっており、下に体言が来ていることからも、この「給ふる」は連体形であるということが分かります。連体形が「給ふる」なのは四段活用ではなく、下二段活用なので、この「給ふ」は謙譲語であると判断することができます。

謙譲語の「給ふ」は「~しております」「~させていただきます」といったように訳します。

※謙譲語の「給ふ」は「~です」「~ます」のように丁寧語のように訳してもよい。

また、謙譲語の「給ふ」を使っているということから、主語が一人称であるということが分かります。つまり、「内々に思ひ給ふ」したのは「私」であるということが、古文には書いていないけど分かるのです。

②-2「内々に思ひ給ふるさまを奏し給へ」(「私が心の中で思っておりますことを申し上げなさってください」)の「給へ」の敬語の種類

次はこの「給へ」です。

「給へ」という形は四段活用では已然形と命令形、下二段活用では未然形と連用形に見られるので、「給へ」の形だけでは尊敬語か謙譲語かを判断することはできません。

ただ、この「給へ」は文末にあり、未然形や連用形になる理由がないので、命令形の「給へ」つまり四段動詞の「給へ」であるということが分かります。

さらにはこの「給へ」は補助動詞ですが、接続しているのが「奏す」であり、「思ふ」「知る」「見る」「聞く」といった動詞ではないということからも、尊敬語の「給ふ」であると判断することができます。

ちなみに尊敬語の「給ふ」は補助動詞で使った場合は、「~なさる」といった尊敬の意味を接続している動詞に付け加えます。

③「珍かなる物を見給へつる」(「珍しいものを目にいたしました」)

最後にこの例文です。

この例文も会話文になっており、さらに今回は「見る」という動詞に接続する補助動詞になっています。

さらに、活用は「給へ」となっており、下を見ると「つる」つまり、完了・強意の助動詞「つ」の連体形になっています。完了・強意の助動詞「つ」は連用形接続なので、この「給へ」は連用形であり、連用形の「給へ」ということは下二段動詞、つまり、謙譲語であるということになります。

「見給へつる」の現代語訳は、「見ておりました」「見させていただきます」「目にいたしました」などのようになります。

ちなみに文末の「つる」が連体形になっているのは、「連体止め」という文法です。連体止めは文末を連体形にすることで、詠嘆や強調を表す文法のことです。

(3)解説授業の内容を復習しよう

敬語文法事項テスト

敬語の種類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)と意味テスト

(4)敬語の解説一覧

意味で注意すべき敬語「参る・奉る・侍り・候ふ・聞こゆ・給ふ」(二種類の意味を持つ敬語、謙譲語の「給ふ」を使うときの条件についても解説しています)

敬意の方向(二方面の敬意、二重敬語(最高敬語)、絶対敬語、自敬表現についても解説しています)

敬語の種類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)と意味一覧

④例文はこちら→敬語(古文)の例文一覧

☆敬語は主体の判別において重要です→主体の判別のための3つのポイントを解説します!(①敬語、②接続助詞、③古文常識、例文による解説もしています)

(5)参考

敬語(古文)の解説・テスト一覧

古文文法の解説動画・授業動画一覧(基礎知識、用言、係り結びの法則、助動詞、助詞、識別、敬語、和歌、主体の判別)

古文文法のすべて(基礎知識、用言、係り結びの法則、助動詞、助詞、識別、敬語、和歌、主体の判別)

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