(1)解説授業動画
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(2)解説授業の原稿
古文における「に」
「に」には、5つの可能性があります。
①完了の助動詞「ぬ」の連用形
②断定の助動詞「なり」の連用形
③格助詞「に」
④接続助詞「に」
⑤「往(去)ぬ」「死ぬ」といったナ変動詞あるいは形容動詞あるいは副詞の一部
接続での識別
まず、「に」の上の形で識別を考えてみます。
「に」の上が連用形の場合は、①完了の助動詞「ぬ」の連用形となります。
「に」の上が体言の場合は、②断定の助動詞「なり」の連用形か③格助詞「に」となります。
「に」の上が連体形の場合は、②断定の助動詞「なり」の連用形か③格助詞「に」か④接続助詞「に」のどれかになります。
⑤のパターンは単語の一部なので、上の形を見ればすぐに識別ができます。
よく使われるパターン
「に」の識別は、接続だけでは難しい場合が多いので、よく使われるパターンを把握しておきましょう。
例えば、「にけり」「にき」「にし」「にしか」などのように下に過去の助動詞を伴ったときの「に」は①完了の「ぬ」の連用形となります。また、「にたり」など下に完了の助動詞を伴った場合の「に」も、①完了の「ぬ」の連用形となります。
「にけり」「にき」「にし」「にしか」は過去と完了を組み合わせた表現で、「にたり」は完了を強めた表現です。これらは「~してしまった」と訳す重要な表現なので覚えておきましょう。
また、②断定の「なり」の連用形が「に」になるときは、下に「あり」「侍り」「候ふ」「おはす」を伴うということも重要です。
格助詞「に」と接続助詞「に」の識別
そして、③格助詞の「に」と④接続助詞の「に」は識別が難しいのですが、意味で識別するようにしましょう。
③格助詞の「に」は、現代語の「に」と同じ用法なので、「~に」と訳します。
④接続助詞の「に」は、文と文をつなぐはたらきをし、順接・逆接・単純接続の3つの形で文と文をつなぎます。順接の場合は「~なので」、逆接の場合は「~だけれども」、単純接続の場合は「~すると」のように訳します。
断定の助動詞「なり」の連用形の「に」を使うときのルール
それでは、断定の助動詞「なり」の連用形の「に」について詳しく解説します。
断定の助動詞「なり」の連用形の「に」を使うときは、基本的に下に「あり」や「あり」の丁寧語の「侍り」「候ふ」や「あり」の尊敬語の「おはす」を伴います。
※例:「にある」「にある」「にあらむ」「におはする」「に侍れ」「に候ふ」など。
また、この「に」と「あり」の間に係助詞や「て」などの接続助詞を挟んだ場合も、この「に」は断定の助動詞「なり」の連用形の「に」となります
※例:「にぞある」「になむある」「にやあらむ」「にかおはする」「にこそ侍れ」「にて候ふ」など。
そして、係助詞の場合、文末で結びの省略を起こすことがあります。そうなった場合の「に」も断定の助動詞「なり」の連用形の「に」となります。
※例:「にぞ。」「になむ。」「にや。」「にか。」「にこそ。」など。
特に入試では結びの省略のパターンで出題されることが多いので、文末が「に+係助詞」になっている場合は、結びの省略が起きていると見破るようにしましょう。
「に」の識別を例文で確認しよう
それでは、「に」の識別を例文を使って確認します。
古文において「に」には7つの可能性があります。
- 完了・強意の助動詞「ぬ」の連用形
- 断定の助動詞「なり」の連用形
- 格助詞「に」
- 接続助詞「に」
- ナ変動詞「去(往)ぬ」「死ぬ」の連用形活用語尾
- ナリ活用形容動詞の連用形活用語尾
- 副詞の一部
このうちナ変動詞と形容動詞と副詞は「に」の上を見ればすぐに分かるので、今回は例文を用意していません。
今回は、完了・強意の助動詞「ぬ」の連用形、断定の助動詞「なり」の連用形、格助詞「に」、接続助詞「に」の4つの例文を確認します。
まずは、この4つの接続を確認してみます。
- 完了・強意の助動詞「ぬ」は連用形接続
- 断定の助動詞「なり」は体言または連体形に接続
- 格助詞「に」は体言または連体形に接続
- 接続助詞「に」は連用形接続
このように、接続だけでは識別できない場合があるので注意しましょう。
①花散りにけり。(花が散ってしまった。)
それでは、まずこの例文です。
この例文の「に」の上を見てみると「散り」となっており、「散り」は四段動詞「散る」の連用形です。
さらに、「に」の下を見てみると「けり」となっており、この「けり」は過去の助動詞「けり」の終止形なので、この「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形と判断することができます。
完了・強意の助動詞「ぬ」は連用形接続であるということからも識別できますが、ぜひ知っておきたいのは、「にけり」「にき」「にたり」といった「に+過去の助動詞」あるいは「に+完了の助動詞」の形は「~してしまった」と訳す表現で、その場合の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形となります。
②かの花は桜にぞありける。(あの花は桜であった。)
次にこの例文です。
この例文の「に」の上を見てみると体言となっており、上を見ただけでは断定の助動詞か格助詞かを判断することはできません。
そこで下を見ます。
「にぞあり」のように、「に」の下に係助詞を挟んでラ変動詞「あり」があるので、この「に」は断定の助動詞「なり」の連用形となります。
断定の助動詞「なり」の連用形の「に」を使うときは、ラ変動詞「あり」、「あり」の尊敬語の「おはす」、「あり」の丁寧語の「侍り」「候ふ」を伴うということは重要なので必ず覚えておきましょう。
今回のように「に」と「あり」の間に、係助詞や接続助詞「て」が挟まっていることもあるので注意しましょう。
③ひがごとにや。(間違いであろうか。(疑問) / 間違いであろうか、いや、間違いではない。(反語))
続いて、この例文です。
この例文の「に」の上も体言になっており、「に」の上を見ただけでは断定の助動詞か格助詞かを判断することはできません。
そこで「に」の下を見てみると、係助詞「や」となっており、「にや」で文末になっています。よって、この「に」は断定の助動詞「なり」の連用形と判断することができます。
②で、断定の助動詞「なり」の連用形の「に」を使うときは、「あり」を伴うと言いましたが、この例文でも「あり」を伴っていると見なすことができます。
なぜなら、文末が係助詞になっている場合は、その係助詞の下に「あり」や「あらむ」が省略されていることが多いからです。このことを「結びの省略」と言います。
よって、省略されてはいるけれど「に」の下に「あり」があるので、この「に」は断定の助動詞「なり」の連用形と判断することができます。
ちなみに、「ひがごと」は「間違い」という意味の単語なので、この文を現代語訳してみると、「間違いであろうか。」あるいは「間違いであろうか、いや、間違いではない。」といったような意味になります。
「にや」の「に」は断定の助動詞なので、現代語訳に「~である」を入れるということ、そして、「や」は疑問(~か)と反語(~か、いや~ない)の意味があるので文脈によって訳し分けるということ、この2点に注意しましょう。
④都に花咲く。(都に花が咲く。)
次に、この例文です。
この例文の「に」の上を見てみると体言になっており、「に」の上を見ただけでは断定の助動詞か格助詞かを判断することはできません。
そこで「に」の下を見てみると、「あり」がありません。よって、断定の助動詞ではないと判断できます。
また、この「に」は現代語訳してみると「~に」となっているので、この「に」は格助詞であると判断することができます。
古文の格助詞「に」は現代語と同じ使い方なので、現代語訳してみて「~に」となる「に」は格助詞であると判断することができます。
⑤桂川、月の明きにぞ渡る。(桂川を月が明るいときに渡る。)
続いて、この例文です。
この例文の「に」の上を見てみると「明き」となっており、「明き」は形容詞「明し」の連体形なので、「に」の上を見ただけでは断定の助動詞か格助詞か接続助詞かを判断することはできません。
そこで、「に」の下を見てみると、「に」の下には「あり」がありません。よって、断定の助動詞ではないと判断できます。
また、この文を現代語訳してみると「桂川を月が明るいときに渡る。」となるので、この「に」は格助詞の「に」と判断することができます。先ほども確認した通り、古文の格助詞「に」は現代語の「に」と同じ使い方をします。
ただ、今回注意したいのは、「明き」の下に「とき」という体言が省略されているということです。
このように、連体形の下に体言を省略する文法のことを「準体法」と言います。準体法で省略される体言は「こと」「もの」「とき」といったような体言が多いです。
「に」の上が準体法になっている場合は、省略されている体言に接続していることになるので、この「に」が接続助詞になることはありません。
また、「連体形+に」の「に」が格助詞の場合は、その連体形は準体法になっている、つまり、体言が省略されているとも言えます。
⑥かぐや姫あやしがりて見るに、鉢の中に文あり。(かぐや姫が不思議に思って見たところ、鉢の中に手紙が入っている。)
最後に、この例文です。
この例文の「に」の上を見てみると「見る」となっており、「見る」は上一段活用動詞「見る」の連体形なので、「に」の上を見るだけでは断定の助動詞か格助詞か接続助詞かを判断することはできません。
そこで「に」の下を見てみると、文が続いています。
よって、この「に」は接続助詞であると判断することができます。接続助詞には文と文をつなぐ働きがあります。
ちなみに、文末に「あり」がありますが、さすがに「に」から離れすぎているので、断定の助動詞「なり」の連用形の根拠にはなりません。断定の助動詞「なり」の連用形と「あり」の間に挟めるのは、係助詞か接続助詞「て」ぐらいです。
また、この文を現代語訳してみると「かぐや姫が不思議に思って見たところ、鉢の中に手紙が入っている。」となり、現代語の「に」のようには訳していないので、格助詞ではないと判断することもできます。
接続助詞「に」には、「~なので」と訳す順接、「~のに」と訳す逆接、「~したところ」「~すると」と訳す単純な接続、の3つの意味があるので、前後の文を見て適切な意味に訳し分ける必要があるので注意しましょう。今回は単純な接続の意味になります。
ちなみに、「鉢の中に」の「に」は現代語と同じ使い方をしているので、格助詞「に」となります。
いかがだったでしょうか。このように「に」は接続だけでは識別できないことが多いので、よく出てくるパターンや意味から判断する必要があります。
(3)解説授業の内容を復習しよう
①重要な識別「ぬ・ね・る・れ・らむ・なむ・に・なり」文法事項確認テスト
②重要な識別「ぬ・ね・る・れ・らむ・なむ・に・なり」練習問題
③重要な識別以外の識別もテストしてみましょう→識別全パターンテスト
④準体法についての確認テストはこちら→準体法確認テスト
(4)識別の解説授業一覧
①「ぬ」「ね」の識別(打消の助動詞「ず」、完了・強意の助動詞「ぬ」)
②「る」「れ」「らむ」の識別(受身・尊敬・可能・自発の助動詞「る」、完了・存続の助動詞「り」、現在推量の助動詞「らむ」)
③「なむ」の識別(他者への願望の終助詞、強意の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「む」、係助詞、ナ変動詞の未然形活用語尾+推量の助動詞「む」)
④「に」の識別(完了・存続の助動詞「ぬ」の連用形、断定の助動詞「なり」の連用形、格助詞「に」、接続助詞「に」、単語の一部)
⑤「なり」の識別(四段活用動詞「なる」の連用形、伝聞・推定の助動詞「なり」、断定の助動詞「なり」)
⑥識別全19パターンをマスターしよう!(し・しか・せ・たり・て・と・とも・な・なむ・なり・に・にて・ぬ・ね・ばや・めり・らむ・る・を)
(5)参考
☆重要な識別「ぬ・ね・る・れ・らむ・なむ・に・なり」解説・テスト一覧
☆古文文法の解説動画・授業動画一覧(基礎知識、用言、係り結びの法則、助動詞、助詞、識別、敬語、和歌、主体の判別)
☆古文文法のすべて(基礎知識、用言、係り結びの法則、助動詞、助詞、識別、敬語、和歌、主体の判別)
☆テーマ別に古文単語をまとめています→古文単語