(1)解説授業動画
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(2)解説授業の原稿
今回は過去の助動詞「き」「けり」の解説をします。
「き」「けり」の意味
助動詞「き」の意味は「〜した」訳す過去になります。また、助動詞「けり」の意味は「〜した」と訳す過去と、「〜だなぁ」と訳す詠嘆の2つの意味があります。
「き」の過去と「けり」の過去は実は微妙に違っており、「き」の方は直接体験した過去を表しており、「けり」の方は伝聞して聞いた過去の意味を表しています。
また、「けり」の詠嘆の意味は気づいたことによる驚きを表しています。つまり、あることに気づき「そうだったんだ」と驚いたときに使うのが詠嘆の「けり」です。主に和歌のなかで使われるということは知っておきましょう。
「き」「けり」の接続
次に接続ですが、「き」「けり」の接続は連用形接続となります。ただし、「き」はカ変やサ変には未然形接続となることがあるので注意しましょう。
「き」「けり」の活用
続いて「き」「けり」の活用を確認します。未然形・連用形・終止形・連体形・已然形・命令形の順番で、
「き」の活用は「せ・○・き・し・しか・○」
「けり」の活用は「(けら)・○・けり・ける・けれ・○」
となります。○というのはその活用形の用例が存在しないということです。
この「き」と「けり」の活用において注意すべきことは、「けり」の未然形の「けら」は上代(奈良時代)にのみ用例が見られます。平安時代以降では、その用例が見られないのでカッコがついています。
また、「き」の未然形の「せ」は、「〜せば……まし」の構文でのみその用例が見られます。この「ば」は未然形接続の順接仮定条件の接続助詞で、「まし」は反実仮想の助動詞です。「〜せば……まし」は「もし〜ならば……なのに」と訳す反実仮想の構文の1つであり、文法的にとても重要なので必ず知っておきましょう。
- 反実仮想の助動詞「まし」の意味と訳し分け(反実仮想・ためらいの意志・反実の願望の訳し分けについて解説しています)
- 接続助詞「ば・を・に・が・ど・ども・と・とも・て・して・で・ものの・ものを・ものから・ものゆゑ」の接続と意味(「ば」の訳し分けについても例文を使って解説しています)
例文で確認
それでは過去の助動詞「き」「けり」の例文をいくつか確認します。
①今宵は十五夜なりけり。(今夜は十五夜であるなあ。)
まずはこの例文です。この例文の「けり」の意味を考えてみましょう。
助動詞の「けり」には過去の意味と詠嘆の意味の2つの意味がありますが、今回は詠嘆の意味になります。
なぜなら「今宵は」とあるからです。つまり、過去に起きた出来事について話しているわけではないので、今回の「けり」は過去の意味にはならず、詠嘆の意味になります。
よって、この文を現代語訳してみると「今夜は十五夜であるなあ。」といったような意味になります。
また、注意したいのはこの「なり」は体言に接続しているので断定の助動詞「なり」の連用形となり、「~である」と訳します。
②春の野に若菜を摘まむと来しものを散り交う花に道はまどひぬ(春の野原で若菜を摘もうとして来たのに、散り乱れる花で道に迷ってしまった。)
次はこの例文です。
この「し」は下に体言が接続しているので、過去の助動詞「き」の連体形の「し」であると判断することができます。
助動詞の「き」には詠嘆の意味はなく過去の意味しかないので、現代語訳するときは「~した」と訳せばよいです。
ただ、今回注意したいのが、この「し」の上の動詞の活用形です。「し」の上は「来」という漢字になっており、古文ではカ変動詞「来(く)」となっています。
過去の助動詞「き」「けり」は基本的に連用形接続なので、この「来」も連用形の「き」になっているかというと、実はそうではなく、過去の助動詞「き」の上のカ変動詞は未然形の「こ」になっています。つまり「来しもの(きしもの)」ではなく、「来しもの(こしもの)」と読まなければいけません。過去の助動詞「き」は基本的には連用形接続ですが、カ変とサ変には未然形に接続することがあります。
この和歌を現代語訳してみると、「春の野原で若菜を摘もうとして来たのに、散り乱れる花で道に迷ってしまった。」となりますが、いくつか現代語訳するときのポイントを確認しておきます。
まず、この「む」は推量の助動詞「む」の終止形で、一人称(わたし)が主語なので、「~しよう」と訳す意志の意味になります。
また、「ものを」は逆接確定条件の接続助詞で「~なのに」と訳します。
最後に、この「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形で、「~した」や「~してしまった」と訳します。
③世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし(もし世の中に全く桜がなかったならば春の人々の心はのどかだろうに。)
続いて、この例文を確認してみます。
この例文には「~せば……まし」の反実仮想の構文が使われています。反実仮想の構文は「もし~ならば……だろうに」と訳す重要な構文です。
反実仮想の構文で使われている「せ」は過去の助動詞「き」の未然形で、過去の助動詞「き」の未然形の「せ」は反実仮想の構文でのみ使います。
このこともついでに知っておきましょう。
(3)解説授業の内容を復習しよう
(4)助動詞(古文)の解説授業一覧
①助動詞(古文)の接続は、まず3つに分類すると覚えやすくなります!(未然形接続、終止形接続(ラ変には連体形接続)、連用形接続)
②打消の助動詞「ず」の解説(補助活用が文法的に重要である理由についても解説しています)
③過去の助動詞「き」「けり」の解説(「~せば……まし」の構文についても解説しています)
④完了の助動詞「つ」「ぬ」「たり」「り」の接続と意味(「つ」「ぬ」が強意の意味になるパターン、「たり」「り」が存続の意味になりやすいとき、「つ」「ぬ」の並列の意味についても解説しています)
⑤推量の助動詞「む・むず・じ・らむ・けむ・べし・まじ」の活用・接続・意味(訳し分けのポイント、婉曲の意味についても解説しています)
⑥推定の助動詞「らし」「なり」「めり」の解説(撥音便・撥音便無表記についても解説しています!)
⑦断定の助動詞「なり」「たり」の意味と接続(「なり」の存在の意味、断定の「なり」の連用形「に」の使い方についても解説しています)
⑧受身・尊敬・可能・自発の助動詞「る」「らる」の意味と訳し分け
⑨使役・尊敬の助動詞「す」「さす」「しむ」の意味と訳し分け(二重敬語(最高敬語)についても解説しています)
⑩反実仮想の助動詞「まし」の意味と訳し分け(反実仮想・ためらいの意志・反実の願望の訳し分けについて解説しています)
(5)参考
☆古文文法の解説動画・授業動画一覧(基礎知識、用言、係り結びの法則、助動詞、助詞、識別、敬語、和歌、主体の判別)
☆古文文法のすべて(基礎知識、用言、係り結びの法則、助動詞、助詞、識別、敬語、和歌、主体の判別)
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