(1)解説授業動画
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(2)解説授業の原稿
今回は電池の計算の基本について解説します。
電池とは何か
まずはそもそも電池とは何かについて確認します。
電池が成立するためには3つの条件があります。この3つの条件を満たしたとき初めてそれは電池となります。
- イオン化傾向が異なる2つの金属を電極にするということ
- 電極が電解液に浸されているということ
- 回路が形成されていること
この3つの条件を電池は満たしていないといけません。
下図の亜鉛と銅を電極にし希硫酸を電解液とした電池で、この3つの条件を確認してみます。
ちなみにこの電池は最も原始的な電池の1つで、ボルタ電池とよばれています。
①イオン化傾向が異なる2つの金属を電極にする
まず電極は亜鉛と銅になっています。
亜鉛と銅のイオン化傾向を比べると、亜鉛の方がイオン化傾向が大きく、銅の方がイオン化傾向が小さいです。そのため亜鉛が酸化されて電子を放出し、銅は電子を受け取って還元されます。
このようにイオン化傾向が異なる2つの金属を電極にすることで電子を移動させることができます。これが1つ目の条件です。例えば電極を亜鉛と亜鉛にした場合は酸化還元反応が起こらず電子は移動しないので電池とはなりません。
ちなみに酸化反応が起き電子を放出する電極のことを負極といい、電子を受け取って還元される電極のことを正極と言います。
そして今回、負極と正極では以下のような反応が起きています。
負極:Zn → Zn2++2e-
正極:2H++2e- → H2
負極では亜鉛が酸化されて亜鉛イオンとなり電子を放出します。そして正極では水素イオンが電子を受け取り水素となります。
注意したいのが、ボルタ電池の正極の反応を以下のように書いてしまう人がいますが、これは有り得ません。
Cu2++2e- → Cu
なぜなら電解液に銅イオンが存在しないからです。そのため銅イオンが還元されて銅となるといった反応は起きることはありません。
②電極が電解液に浸されている
今回、電解液は希硫酸なので
H2SO4 → 2H+ + SO42-
このように電離をしており、水素イオンが電解液中に存在しているので、正極では水素イオンの還元反応が起きるのです。
そして、これが2番目の条件となります。つまり、電解液はイオンが存在することができる溶液でなければ、このような酸化還元反応が起きないので電池が成立しなくなってしまうのです。
③回路が形成されている
そして、最後の条件である回路が形成されているとはどういうことかというと、負極から出た電子が導線を伝って正極に届き、そして2つの電極が電解液でつながれている状態が回路が形成されている状態です。
実際は電解液の中を電子が移動するということはありませんが、イメージとして循環ができていないと電池は成立しません。例えば導線が切れていたり、電解液の中にガラスなどイオンを通さない壁があったりすると電流は発生しません。
ちなみに電流は正極から負極に流れるものと定義されているので、電子の移動方向とは逆方向になるということは知っておきましょう。なぜ電子の移動方向と電流の向きが逆向きになったかというと、電流は正極から負極に流れると定義したときはまだ電子というものが発見されていなかったので、とりあえず向きを決めてみたら、あとで電子は逆向きに流れていると分かったけど、もう向きを決めてしまったのでそのまま変えずに使うことにしたからです。
電池の計算における方程式の立て方
それでは電池の計算における方程式の立て方を確認します。
電池の計算においては、以下の3つの式を使って方程式を立てます。
まずは上の式を確認します。
分子のIは電流で単位は[A]です。そしてtは時間で単位は[s]です。この電流と時間をかけることで何が出ているのかというと、Qつまり電気量を求めているのです。電気量の単位は[C]です。
電気量とは電荷の量のことで、物理選択者にとってはお馴染みの量だと思います。もし物理を選択していない方がいれば、「電気量は電流と時間をかけたものである」というように覚えておきましょう。
続いて分母です。分母の9.65×104[C/mol]はファラデー定数とよばれており、単位の[C/mol]からわかるとおり、電子が1mol流れたときの電気量を表しています。
よってこの式が意味していることは、そのとき流れた電気量[C]を1molあたりの電気量[C/mol]で割っているので、移動した電子の物質量[mol]を表しています。
これが分かれば、この3つの式の方程式の意味がわかると思います。つまり、負極が放出する電子の物質量は、回路を流れてそのまま正極が受け取るということです。
このように電池を考える上では、どの場所でも電子の物質量は変わらないということを使って方程式を立てるのです。
それではこのことを使って計算問題を解いてみます。
例題
それでは計算問題を解いていきます。
上図の電池において電球を60分間ともした。このとき電流は0.120A流れていた。では負極と正極の重さはそれぞれ何g変化したか求めてみましょう。ただし有効数字は3桁で答え、銅の原子量は64、亜鉛の原子量は65とします。
まずは電池を確認します。電池の電極は亜鉛と銅です。そして素焼き板というイオンだけを通す板で2つの溶液を仕切り、亜鉛側の電解液は硫酸亜鉛水溶液で、銅側の電解液は硫酸銅水溶液となっています。
素焼き板というものはイオンだけは通すので、回路がここで途切れることはありません。また通すのはイオンだけなのでこの2つの溶液が混ざることはありません。このような電池のことをダニエル電池といいます。ダニエル電池の詳しい解説は別の動画でしているのでそちらもご覧になってください。
図をかき電子の流れを確認し、負極と正極の反応を確認する
電池や電気分解の問題を解くときは、まず電子の移動する向きを確認しましょう。
今回は電極が亜鉛と銅なので、イオン化傾向が大きい亜鉛から電子が放出され、イオン化傾向の小さい銅は電子を受け取るので、電子の流れる向きは下図のようになります。
よって負極と正極の反応はこのようになります。
負極:Zn → Zn2++2e-
正極:Cu2++2e- → Cu
負極は亜鉛が酸化されて亜鉛イオンとなり電子を放出します。
そして正極は銅イオンが電子を受け取り銅となります。今回は正極側の電解液は硫酸銅水溶液なので、銅イオンが存在しています。そのため銅イオンの還元反応が起きます。
方程式を立てる
これで負極と正極の反応が確認できたので、あとは方程式を考えていきます。
負極は亜鉛がイオンとなっているので減少し、正極は銅が生成しているので増加します。よって減少する亜鉛の質量をWZn、増加する銅の質量をWCuとすると方程式は以下のようになります。
まずは回路を流れた電子の式を確認します。電流が0.120Aで、それを60分間流していたので60×60秒をかけます。秒にするのを忘れないようにしましょう。これで電流に時間をかけているので、分子は今回流れた電気量の[C]となります。そして、それをファラデー定数で割ることで回路に流れた電子の物質量となります。
次に負極ですが、減少した亜鉛の質量を亜鉛のモル質量で割ることで減少した亜鉛の物質量となり、負極の反応式を見ると亜鉛と電子の係数の比は1:2なので×2をすることで負極が放出した電子の物質量となります。
同様に正極は、増加した銅の質量を銅のモル質量で割ることで増加した銅の物質量となり、正極の反応式を見ると銅と電子の係数の比は1:2なので×2をすることで正極が受け取った電子の物質量となります。そして、この電池において負極が放出する電子の物質量と、回路を流れる電子の物質量と、正極が受け取る電子の物質量はすべて等しくなるので、方程式が成り立ちます。
あとはこの3つから必要な2つをそれぞれ選んで方程式を解いて答えを求めていきます。
工夫しながら方程式を解く
それでは方程式を解いていきます。まずは負極の方から解きます。
小数点がやりにくいので分母の9.65の小数点を2つ動かし、分子の0.12の小数点も2つ動かします。あとは10を2つ約分します。そして左辺を求めたい文字だけにけして、残りを右辺に集めます。
あとは約分ができるだけ約分をしていきます。できるだけ約分をしたら分子の掛け算をして、最後に割り算をして、有効数字が3桁になるように四捨五入すれば、WZn=0.145gとなります。よって「負極は0.145g減少する」ということになります。
続いて正極も同様に解きます。
負極のときと全く同じ流れで計算をするとWCu=0.143gとなり、答えは「正極は0.143g増加する』となります。
いかがだったでしょうか。電池の計算の基本はとにかく電子の物質量を考えるということが重要になります。ぜひ他の問題でも今回ご紹介した解法を使ってみてください。
(3)解説授業の内容を復習しよう
(4)電池(理論化学)の解説一覧
①金属のイオン化傾向を完全に理解しよう(水との反応・酸との反応)
②電池の計算の基本(ボルタ電池、電池が成立するための条件についても解説しています)
③ダニエル電池完全解説(ボルタ電池の問題点(分極)、素焼き板の役割、起電力を大きくする方法、電池を長持ちさせる方法についても解説しています)
④鉛蓄電池の計算の考え方(そもそも鉛蓄電池とは何か、充電できる理由、消費・生成と増減の違いについても解説しています)
(5)参考
☆電池と電気分解(理論化学)の解説・授業・知識・演習問題一覧
☆化学の解説動画・授業動画一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学知識一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学知識テスト一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学の解説・授業・知識・演習問題一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学の語呂合わせ(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
「化学計算の王道」シリーズは『思考訓練の場としての体系化学』(GHS予備校)を参考にしています。
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