(1)解説授業動画
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(2)解説授業の原稿
黒鉛の昇華熱の考え方
それでは最後にこの問題を解きます。
HーH結合の結合エネルギーは435kJ/mol、黒鉛の昇華熱は720kJ/molである。エタンC2H6(g)、プロパンC3H8(g)の生成熱はそれぞれ83kJ/mol、104kJ/molである。CーHの結合エネルギーを求めよ。
なぜ黒鉛の昇華熱は結合エネルギーと考えるのか
この問題を解く前に1つ確認することがあります。それは、結合エネルギーの問題において、黒鉛の昇華熱をどのように捉えるかということです。
結論から言うと、「黒鉛の昇華熱は黒鉛の結合エネルギーと考える」となります。正確には「結合エネルギー」ではなく「解離エネルギー」ですが、問題を解くだけであれば、結合エネルギーと考えてもよいでしょう。
ではなぜ、黒鉛の昇華熱は黒鉛の結合エネルギーとなるのでしょうか。
そもそも黒鉛は上図の左のような結合をしています。
六角形に炭素原子が結合し、それがシート上に広がっています。そして、そのシートが何枚にも重なって黒鉛となっています。そのシートが剥がれやすいという性質があるため、鉛筆の芯などに使われています。
では、このような黒鉛を昇華、つまり気体にするとどうなるのでしょうか。
炭素の気体は炭素原子がそれぞれバラバラになり、自由に動ける状態になっています。この状態になるためには、黒鉛の炭素原子どうしの結合を全て切らないといけません。そのためにはエネルギーが必要であり、結合を切るためのエネルギーなので、結合エネルギーと考えることができます。
よって、黒鉛を気体にする、つまり昇華するのに必要なエネルギーと、黒鉛の炭素原子どうしを切断するのに必要なエネルギーは等しくなるので、黒鉛の昇華熱と黒鉛の結合エネルギーは同じものであると考えることができます。
答案の方針
それでは、この点を踏まえて問題を解いていきます。
今回は結合エネルギーを使って解く問題で、エタンC2H6(g)とプロパンC3H8(g)の2つの生成熱が与えられているので、エタンを生成する熱化学方程式から、反応熱=(左辺のエネルギー)-(右辺のエネルギー)の方程式を作り、同様にプロパン生成の熱化学方程式から、反応熱=(左辺のエネルギー)-(右辺のエネルギー)の方程式を作るという方針で解いていきます。
エタン生成の熱化学方程式から方程式を立てる
まずはエタンの生成から方程式を作っていきます。エタン生成の熱化学方程式は
2C(黒鉛)+3H2(g)=C2H6(g)+83kJ
になります。エタンの係数が1になるように注意しましょう。
そして今回求めるCーHの結合エネルギーをE1、さらにCーCの単結合の結合エネルギーをE2とします。なぜCーCの単結合の結合エネルギーを文字で置く必要があるかについては、後ほど解説します。
それでは、原子がバラバラの状態を基準として左辺(2C(黒鉛)+3H2(g))と右辺(C2H6(g)+83kJ)のエネルギーをエネルギー図にかいていきます。
まずは左辺です。先ほども確認した通り、黒鉛の昇華熱は黒鉛の結合エネルギーと考えます。
そのため炭素原子がバラバラの状態から黒鉛を2mol作るためには720×2エネルギーを下げないといけません。そこからさらに水素原子を3mol、つまりHとHの結合を3molつなぐためには435×3エネルギーを下げないといけません。よって左辺のエネルギーの位置は、(ー720)×2+(ー435)×3となります。
続いて右辺つまりエタンのエネルギーの位置を考えます。
エタンは下図のような構造をしており、CとHの単結合が6個あり、さらにCとCの単結合が1つあります。
そのためエタンのエネルギーを考えるためには、CとCの単結合の結合エネルギーが必要なので、最初にE2と設定したのです。
よって、エタンのエネルギーの位置は、原子がバラバラの状態からE1を6個分下げて、E2を1つ分下げた(ーE1)×6+(ーE2)となります。
よって左辺と右辺のエネルギーの差を考えて、反応熱が83kJなので、
83=(ー720)×2+(ー435)×3ー{(ーE1)×6+(ーE2)}
の方程式を立てることができ、この方程式を整理すると6E1+E2=2828といった、E1とE2を含む方程式ができます。
ここまでくれば、この問題の答案の流れが見えてくると思います。つまり、プロパンでも同様にE1とE2を含む方程式を作り、2つの方程式を連立させてE1とE2を求めるという方針でこの問題は解きます。
プロパン生成の熱化学方程式を使って方程式を立てる
それでは、プロパンの生成の熱化学方程式を作って、先ほどと同様にE1とE2を含む方程式を作っていきます。
3C(黒鉛)+4H2(g)=C3H8(g)+104kJ
がプロパン生成の熱化学方程式です。生成熱の場合は、プロパンの係数を1にするのを忘れないようにしましょう。
そして、原子がバラバラの状態を基準として、左辺(3C(黒鉛)+4H2(g))のエネルギーは黒鉛が3つと水素が4つなので、(ー720)×3+(ー435)×4となります。
続いて、プロパンの構造は下図のようになっており、CとHの単結合が8つあり、CとCの単結合が2つあります。
よって、この熱化学方程式の右辺(C3H8(g)+104kJ)、つまりプロパンのエネルギーの位置は(ーE1)×8+(ーE2)×2となり、左辺と右辺のエネルギーの差は反応熱の104kJとなります。したがって、
104=(ー720)×3+(ー435)×4ー{(ーE1)×8+(ーE2)×2}
の方程式を立て、それを整理すると、8E1+2E2=4004となり、先ほど求めた6E1+E2=2828の方程式と連立させて、E1つまりC―Hの結合エネルギーは413kJ/molとなります。
いかがだったでしょうか。このエネルギー図を使った解法の流れで問題に取り組めば、このような応用問題でも確実に解くことができるようになります。ぜひ今回ご紹介した解法で問題演習してみてください。
(3)解説授業の内容を復習しよう
(4)熱化学方程式の解説一覧
①熱化学方程式の解法①(エネルギー図を使った解法の解説、生成熱を扱った問題の解法)
②熱化学方程式の解法②(蒸発熱の扱い方、結合エネルギーを扱った問題の解法)
③熱化学方程式の解法③(黒鉛の昇華熱の考え方、熱化学方程式の応用問題)
④気体の燃焼の化学反応式の作り方(酸素の係数は最後に調整する)
(5)参考
☆化学の解説動画・授業動画一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学知識一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学知識テスト一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学の解説・授業・知識・演習問題一覧(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
☆化学の語呂合わせ(化学基礎・理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物)
「化学計算の王道」シリーズは『思考訓練の場としての体系化学』(GHS予備校)を参考にしています。
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