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(2)解説授業の原稿
敬意の方向の基本ルール
敬意の方向(誰から誰への敬意か)は、入試でもよく問われますし、古文の解釈においても重要な要素です。
まずは基本のルールを確認しましょう。
①尊敬語の場合、敬意の方向(誰から誰に対して敬意を示されているか)は、地の文であれば作者から、会話文であれば発言者から、動作の主体に対して敬意が示されています。
尊敬語は敬意の対象が主体であるので、「誰が」この動作をするのかが重要となります。
②また、謙譲語は、地の文であれば作者から、会話文であれば発言者から、動作の客体に対して敬意が示されています。
謙譲語は客体が敬意の対象となるので、「誰に」この動作をするのかが重要となります。
③丁寧語は、地の文であれば作者から読者への敬意が示されており、会話文であれば発言者から聞き手への敬意が示されています。
そのため、会話文の中で丁寧語が使われていれば、その会話を「誰が」しているのか、そしてその会話を「誰に」しているのかが重要になってきます。
このように、敬意の方向を確認したいときは主体と客体、つまり「誰が」と「誰に」を確認しなければいけません。
二方向への敬意(二方面への敬意)
それでは、敬意の方向に関して注意しなければいけない表現をいくつか確認します。
まずは、二方向への敬意(二方面への敬意)です。
「AがBに参り給ふ」
例えば、このように謙譲語と尊敬語を組み合わせて使った場合、敬意の方向はどうなるかというと、地の文であれば作者から、会話文であれば発言者から、A・B両方への敬意を示すことになります。
つまり、謙譲語が動作の客体に、尊敬語が動作の主体に対する敬意を示しているので、組み合わせて使うとその両方に対して敬意を持っているということになります。
二重敬語(最高敬語)
続いて二重敬語です。二重敬語とは、尊敬の意味の助動詞「す」「さす」「しむ」と、「給ふ」や「おはします」などの尊敬語を組み合わせた表現です。
※「せ給ふ」「させ給ふ」「しめ給ふ」「せおはします」「させおはします」「しめおはします」など
尊敬を表す言葉を2つ組み合わせているので二重敬語と呼ばれており、最高敬語とも言います。
つまり、二重敬語を使った場合の敬意の対象は、その場面で最も位の高い人ということになります。しかし、必ずしも帝が主体のときのみ使われるわけではないということは知っておきましょう。
また、併せて確認したいのが尊敬の「る」「らる」と、「給ふ」と「せ給ふ」の敬意の強さは、
「せ給ふ」>「給ふ」>「る」「らる」
この順に強くなるということは知っておきましょう。
状況によって、1つの文章の中でこれらを使い分けていることがあるので、注意してください。
絶対敬語
続いて、絶対敬語です。
絶対敬語とは、「奏す」や「啓す」など、敬意の対象が決まっている敬語のことです。「奏す」と「啓す」は、ともに「言ふ」の謙譲語なので、「申し上げる」と訳しますが、誰に対して申し上げるかが決まっています。
「奏す」は天皇や上皇に対して申し上げるときに使う言葉で、「啓す」は中宮(天皇の妻の皇后)に対してか、東宮(皇太子)に対して申し上げるときに使う敬語です。
自敬表現
最後に、自敬表現です。
自敬表現とは、会話文中で自らの行動に対して尊敬語を使う表現のことです。
基本的に、自分の行動に対して尊敬語を使うことはありません。ただし、天皇や上皇や神といった、最も位の高い存在は、自分の行動に対して尊敬語を使うことがあるので注意しましょう。
例文を使って敬意の方向を考えてみよう
それでは、敬意の方向を例文を使って確認します。
敬意の方向とは「誰から誰への敬意を表しているか」ということです。
誰からの敬意か
誰からの敬意かは、地の文か会話文かによって決まります。
地の文であれば、その文章や作品の作者からの敬意を表し、会話文や手紙文であれば、その会話の発話者や、その手紙を書いた人からの敬意を表します。
誰への敬意か
また、誰への敬意かは敬語の種類、つまり、尊敬語か謙譲語か丁寧語かによって決まります。
尊敬語であれば動作の主体(その動作をする人)への敬意を表し、謙譲語であれば動作の客体(その動作をされる人)への敬意を表します。
そして丁寧語は、会話文であれば、その会話を聞いている人への敬意を表し、地の文であれば、その文を読んでいる人、つまり読者への敬意を表すことになります。
以上をふまえて以下の例文に含まれる敬語の敬意の方向を考えていきます。
①-1 上に「いと宮いだきたてまつらむ」と、殿ののたまふ。(上に「私がいと宮を抱き申し上げよう」と殿がおっしゃる。)
まずは、この例文です。
この「たてまつる」は会話文の中にあるので、この会話の発話者からの敬意となります。
そこで最後まで文を見てみると、「殿ののたまふ(殿がおっしゃる)」と書いてあるので、この会話の発話者が「殿」であると分かり、この「たてまつる」は「殿」からの敬意であるということになります。
また、「たてまつる」は補助動詞で使った場合は、「~申し上げる」という意味の謙譲語なので、動作の客体への敬意となります。
つまり、「いだきたてまつらむ(抱き申し上げよう)」をされたのは誰かと考えてみると、「いと宮」であると分かるので、この「たてまつる」は「いと宮」への敬意を表しているということになります。
ちなみに、「いだく」は「抱く」「抱える」という意味の動詞です。
①-2 上に「いと宮いだきたてまつらむ」と、殿ののたまふ。(上に「私がいと宮を抱き申し上げよう」と殿がおっしゃる。)
次に、この「のたまふ」ですが、この「のたまふ」は地の文にあるので作者からの敬意を表しています。
そして「のたまふ」は「おっしゃる」という意味の尊敬語なので、「のたまふ」の動作の主体、つまり「誰がおっしゃるのか」を考えてみます。
すると、「殿がおっしゃる」と書いてあるので、「のたまふ」の動作の主体は「殿」になり、この「のたまふ」は殿への敬意を表しているということになります。
ちなみに、「殿の」の「の」は格助詞の「の」で今回は主格つまり「~が」という意味になっています。
②-1 男、女に「花侍りや」と問ひ候ひけり。(男が女に「花はありますか」と問いました。)
続いて、この例文です。
この「侍り」は会話文の中にあるので、この会話の発話者つまり「男」からの敬意を表しています。
さらに、会話文の中の丁寧語なので、この会話を聞いている人つまり「女」への敬意を表すことになります。
②-2 男、女に「花侍りや」と問ひ候ひけり。(男が女に「花はありますか」と問いました。)
次にこの「候ふ」ですが、この「候ふ」は地の文にあるので、作者からの敬意を表します。
そして、地の文の中の丁寧語なので、読者への敬意を表すことになります。
③-1 殿、若宮いだき出て奉りたまふ。(殿は若宮を抱きながら出てき申し上げなさる。)
次にこの例文です。
この「奉る」は地の文にあるので作者からの敬意を表しています。
さらに、「奉る」は補助動詞で使った場合は、「~申し上げる」という意味の謙譲語なので、動作の客体つまり「誰を抱きながら出てきたのか」を考えます。
すると、「殿が若宮を抱きながら出てき申し上げなさる」と書いてあるので、動作の客体である「若宮」への敬意を表すことになります。
③-2 殿、若宮いだき出て奉りたまふ。(殿は若宮を抱きながら出てき申し上げなさる。)
また、この「たまふ」も地の文にあるので、作者からの敬意を表しています。
さらに、今回の「たまふ」は補助動詞で、「~なさる」という意味の尊敬語になっているので、動作の主体を考えます。
つまり、「誰が抱きながら出てたのか」を考えてみると、「殿」が動作の主体であると分かるので、この「たまふ」は「殿」への敬意を表すことになります。
二方面への敬意(二方向への敬意)
ちなみに、この例文のように1つの動詞に謙譲語と尊敬語といったように、2種類の敬語を付けることを、二方面への敬意(二方向への敬意)と言います。
今回のように、謙譲語と尊敬語の両方を付けた場合は、動作の主体と客体のどちらに対しても敬意を表すことになります。
④中将こまごまと奏す。(中将こまごまと(天皇または上皇に)申し上げなさる。)
次はこの例文です。
この例文の「奏す」は地の文にあるので、作者からの敬意を表しています。
「奏す」は「申し上げる」という意味の謙譲語なので、動作の客体つまり「誰に申し上げるか」を考えます。
ただ今回、例文を見てみると、「中将がこまごまと申し上げる」となっており、動作の客体が書かれていません。
しかし、「奏す」は天皇または上皇に対して申し上げるときに使う敬語なので、「奏す」の動作の客体は天皇または上皇になります。よって、「奏す」の敬意の対象も天皇または上皇ということになります。
絶対敬語
このように敬意の対象が決まっている敬語のことを「絶対敬語」と言います。
絶対敬語は「奏す」と「啓す」の2つを覚えておきましょう。
⑤-1 兼家、東宮に参り給ひて、ありさまを啓せさせ給ふ。(兼家は東宮のもとに参上しなさって、様子を東宮に申し上げなさる。)
続いて、この例文です。
この例文の「啓す」は地の文にあるので、作者からの敬意を表しています。
そして、「啓す」は「申し上げる」という意味の謙譲語ですが、先ほども確認した通り絶対敬語であり、「啓す」は中宮や東宮に申し上げるときに使う敬語です。中宮は皇后(天皇の正妻)のことで、東宮は皇太子(次期天皇)のことです。
今回は文に「東宮」と書いてあるので、「啓す」の動作の客体は「東宮」になり、「啓す」の敬意の対象も「東宮」ということになります。
⑤-2 兼家、東宮に参り給ひて、ありさまを啓せさせ給ふ。(兼家は東宮のもとに参上しなさって、様子を東宮に申し上げなさる。)
この例文の「させ給ふ」を考えます。
この「させ給ふ」は地の文にあるので、作者からの敬意を表しています。
次に「させ給ふ」の敬語の種類を考えるのですが、今回の「させ給ふ」は尊敬語と尊敬語を重ねた二重敬語(最高敬語)の形になっています。
二重敬語(最高敬語)とは通常の敬語よりも強い敬意を表す表現です。
ただ、二重敬語(最高敬語)と言っても、尊敬語であることには変わりないので、誰への敬意かを考えるときは、動作の主体を考えます。つまり、「誰が様子を申し上げなさるのか」を考えると、今回は「兼家」が動作の主体となります。
よって、この「させ給ふ」は「兼家」への敬意を表しているということになります。
二重敬語(最高敬語)は、とても高い身分の人物に使うものですが、今回のように、必ずしも天皇である必要はないということは、知っておきましょう。
⑥-1 帝「朕歌よみ給はむ。今宵、清涼殿へ参れ」と仰せけり。(帝は「私が歌をお詠みしましょう。今夜、あなたは清涼殿へ参上してください」とおっしゃった。)
最後にこの例文です。
この例文の「給ふ」は会話文の中にあるので、会話の発話者つまり「帝」からの敬意を表すことになります。
また、今回の「給ふ」は補助動詞で、「~なさる」という意味の尊敬語になっているので、動作の主体が敬意の対象になります。
この「朕(ちん)」という言葉は、天皇(帝)の一人称を表しているので、動作の主体は天皇(帝)になります。よって、この「給ふ」は「帝」への敬意を表していることになります。
自敬表現
今回の「給ふ」のように自分から自分への敬意を表す表現を「自敬表現」と言います。
このような自敬表現は誰もが使えるわけではなく、神様や天皇といった存在しか使わない表現なので注意しましょう。
⑥-2 帝「朕歌よみ給はむ。今宵、清涼殿へ参れ」と仰せけり。(帝は「私が歌をお詠みしましょう。今夜、あなたは清涼殿へ参上してください」とおっしゃった。)
次にこの「参る」ですが、この「参る」も会話文の中にあるので、発話者の「帝」からの敬意を表しています。
そして、今回の「参る」は「参上する」という意味の謙譲語なので、動作の客体を考えます。つまり、「誰のものとへ参上するのか」を考えます。
今回のポイントは「清涼殿」という場所です。「清涼殿」とは天皇(帝)が普段いる宮殿のことです。
そのため「清涼殿へ参る」と書いてあれば、「清涼殿にいる天皇のもとへ参上する」ということなので、動作の客体は天皇(帝)となり、この「参る」も「帝」への敬意を表すことになります。
したがって、この「参る」も「帝」から「帝」への敬意を表しているので、自敬表現になっているということになります。
ちなみに今回のように「〔場所〕へ参る」となっているときの、敬意の対象(動作の客体)を考えるときは、その場所にいる人、あるいは、その場所の主が誰なのかを考える必要があります。
(3)解説授業の内容を復習しよう
(4)敬語の解説一覧
①意味で注意すべき敬語「参る・奉る・侍り・候ふ・聞こゆ・給ふ」(二種類の意味を持つ敬語、謙譲語の「給ふ」を使うときの条件についても解説しています)
②敬意の方向(二方面の敬意、二重敬語(最高敬語)、絶対敬語、自敬表現についても解説しています)
④例文はこちら→敬語(古文)の例文一覧
☆敬語は主体の判別において重要です→主体の判別のための3つのポイントを解説します!(①敬語、②接続助詞、③古文常識、例文による解説もしています)
(5)参考
☆古文文法の解説動画・授業動画一覧(基礎知識、用言、係り結びの法則、助動詞、助詞、識別、敬語、和歌、主体の判別)
☆古文文法のすべて(基礎知識、用言、係り結びの法則、助動詞、助詞、識別、敬語、和歌、主体の判別)
☆テーマ別に古文単語をまとめています→古文単語