言語学者で南カルフォルニア大学名誉教授のスティーヴン・クラッシェン氏は、
「言語習得の唯一の方法は、意味の理解できるメッセージ(comprehensive input)を聞くことである」
と主張しています。
つまり、読んだ文章や相手が話したことが、メッセージとして理解できたとき、それが脳の言語習得を司る領域にインプットされ、言語習得が進むという説です。
※ちなみに望ましいインプットは、言語習得者が理解できるラインよりも少し上のインプットであるとクラッシェン氏は述べています。つまり、そのようなインプットを繰り返し行うことで、少しずつ理解できるラインを上げていくことが、言語習得であるということなのです。
また、クラッシェン氏は
Talking is not practicing.
とも述べています。これは、多くの英語教師には衝撃的ではないでしょうか。Talking自体は無駄ではないが、あくまで間接的にしか言語習得に貢献しないということなのです。会話をするにしても、相手の話を理解できるメッセージ(comprehensive input)としてインプットしたときのみ、言語習得が進むとクラッシェン氏は主張しています。
ただ聞くだけのリスニング学習が無意味であること、幼児~小学校低学年に英会話を習っていても英語習得につながらない人が多くいるということを考えてみると、この説には一定の評価を与えるべきだと思います。
※かつて一般的であった幼児~小学校低学年の英会話教室のレッスンは、「英語の歌を歌おう」「先生のマネをして発音してみよう」というのが大半でした。comprehensive inputの説に従うと、これらはほとんど言語習得に寄与しないということになります。
さらに、クラッシェン氏は、脳の言語習得を司る領域にインプットを送るためには、
high motivation(強い動機)
high self-esteem(十分な自尊心)
low anxiety(少ない不安)
が必要であると述べており、先生と呼ばれる人間の役割は、これらがそろう環境を作ることであるとしています。
この説は、言語学習以外の学習にも適用できるのではないかと思える場面が多々あります。
数学や理科などで、いくら素晴らしいとされる授業を受けても、いくら問題を解いても、(特定の問題あるいはその科目全体が)できるようにならない生徒がいます。
これは、授業や解説などがcomprehensive inputとなっていないからではないかと考えることができるのではないでしょうか。
※参考:効率の良いインプット方法、インプット‐ネットワーク理論とは何か
~参考~
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