「なり」の識別(四段活用動詞「なる」の連用形、伝聞・推定の助動詞「なり」、断定の助動詞「なり」)【古文文法のすべて】

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(2)解説授業の原稿

古文における「なり」

「なり」は4つの可能性があります。

①ナリ活用の形容動詞の活用語尾、つまり形容動詞の一部となっているパターン

②四段動詞「なる」の連用形

③伝聞・推定の助動詞「なり」

④断定の助動詞「なり」

接続による識別

①のパターンは、上の形を見たらすぐにわかります。

②の動詞の場合は、様々な単語が接続するのですが、特に、連用形となっていた場合は助動詞ではなく、動詞になります。

また、形容詞や形容詞型に活用する助動詞の右側つまり基本活用が接続している場合も、助動詞ではなく動詞となります。

例えば、「うつくしくなり」となっていれば、「うつくしく」は右側つまり基本活用なので、この「なり」は助動詞になることはなく、動詞で確定します。

そして、伝聞・推定の助動詞は、終止形接続(ラ変には連体形接続)となり、断定の助動詞は体言または連体形に接続します。

よくあるパターン

しかし、終止形と連体形が同じ形になるものは多くあるので、接続だけで識別することが難しい場合が多いです。そのような場合は、よくあるパターンを覚えて、識別するようにしましょう。

発音便・発音便無表記に接続

例えば、「あんなり」や「なんなり」など、撥音便となったときは、伝聞・推定の助動詞で決まります。また、「あなり」「ななり」など、撥音便無表記となった場合でも、伝聞・推定の助動詞で決まります。

なぜなら断定の助動詞に撥音便や撥音便無表記となる用法はないからです。

助動詞のとき断定の意味になるパターン

さらに、「なり」が助動詞であるとわかっている場合、「なりけり」の形になっていれば、この「なり」は断定の助動詞となります。なぜなら、伝聞推定の助動詞の「なり」は下に「けり」を接続することはないからです。

また、「なり」が助動詞だとわかっている状態で主語が私、つまり一人称である場合は、伝聞・推定にはなりにくく、断定となります。なぜなら、自分の行動を伝聞したり推定したりすることはあまりないからです。

ただし注意したいのは、「なりけり」や一人称主語のパターンは、伝聞・推定の助動詞か断定の助動詞かと言われれば、断定の助動詞になるパターンなので、「なりけり」や一人称主語で動詞になることもあるという点は注意しておいてください。

「なり」の識別を例文で確認しよう

それでは「なり」と「なら」の識別を例文を使って確認します。

古文において「なり」や「なら」には4つの可能性があります。

  1. 四段動詞「なる」
  2. 伝聞・推定の助動詞「なり」
  3. 断定の助動詞「なり」
  4. ナリ活用形容動詞の活用語尾

今回は動詞と助動詞の識別の例文を確認します。形容動詞に関しては「なり」「なら」の上を見ればすぐに分かるので、今回は例文を用意していません。

それでは例文を確認していきます。

①春来るなり。(春が来るのだ。)

まずはこの例文です。

この例文の「なり」の上を見てみると「来る」となっており、「来る」はカ変動詞「来(く)」の連体形なので、この「なり」は断定の助動詞「なり」の終止形となります。

断定の助動詞「なり」は体言または連体形に接続します。

②春来なり。(春が来るようだ。)

続いてこの例文です。

この例文の「なり」の上を見てみると「来」という漢字だけになっており、これでは未然形の「こ」なのか、連用形の「き」なのか、終止形の「く」なのか、命令形の「こ」なのかが分かりません。

未然形連用形終止形連体形已然形命令形
くるくれ
こよ

ただ、いずれにしても連体形ではないので、断定の助動詞「なり」ということはありません。

また、この「なり」が文末に来ており終止形であると判断すれば、四段動詞「なる」ということもありません。

未然形連用形終止形連体形已然形命令形
ならなりなるなるなれなれ

よって、この「なり」は、伝聞・推定の助動詞「なり」の終止形であると判断することができます。

この「なり」の意味が伝聞なのか推定なのかは文脈次第で、今回は推定(~ようだ)の意味で「春が来るようだ。」と現代語訳します。

伝聞・推定の助動詞「なり」はラ変以外には終止形接続で、ラ変には連体形接続なので、今回の「なり」の上は終止形の「く」であるということが分かります。

③春来べくなりにけり。(春が来るはずになってしまった。)

続いてこの例文です。

この例文の「なり」の上を見てみると「べく」となっており、「べく」は推量の助動詞「べし」の未然形または連用形です。

活用の種類未然形連用形終止形連体形已然形命令形
本活用べくべくべしべきべけれ
補助活用べからべかりべかる

いずれにしても連体形ではないので断定の助動詞「なり」ということはなく、終止形でもないので伝聞・推定の助動詞「なり」ということもありません。

※「助動詞は補助活用にのみ接続する」というルールからも、「べく」の下は助動詞ではないということが分かる。詳しくはこちら→補助活用が文法的に重要な理由を解説します!

よって、この「なり」は四段動詞「なる」の連用形となります。

そのため、この「べく」は連用形であることが分かります。なぜなら、四段動詞「なる」は動詞つまり用言なので、「なる」の上に活用語を接続する場合は、その活用語は連用形になるからです。

④うれしく思ふならむ。(うれしく思うのであろう。)

続いてこの例文です。

この例文の「なら」の上を見てみると「思ふ」となっており、「思ふ」は四段動詞「思ふ」の終止形または連体形です。そのため連用形ではないので、四段動詞「なる」ではありません。

ただ、終止形と連体形が同じ形なので、接続で断定の助動詞か伝聞・推定の助動詞かの判断をすることはできません。

しかし、「なら」の形であれば、断定の助動詞「なり」の未然形であるとすぐに判断することができます。なぜなら、伝聞・推定の助動詞「なり」は未然形の「なら」の用法がないからです。

意味未然形連用形終止形連体形已然形命令形
伝聞・推定なりなりなるなれ
断定ならなり
なりなるなれなれ

活用表を見てみると、伝聞・推定の助動詞「なり」は未然形のところが「〇」になっています。活用表の「〇」はその用法が存在しないということを表しています。

つまり、古文で「なら」を見たら、伝聞・推定の助動詞「なり」の可能性は排除して考えることができます。(「なら」は、断定の助動詞「なり」の未然形か四段動詞「なる」の未然形か、あるいはナリ活用形容動詞の未然形活用語尾である。)

⑤うれしく思ふなりけり。(うれしく思うのであった。)

続いて、この例文です。

この例文の「なり」の上を見てみると「思ふ」となっており、④の例文と同じ理由で四段動詞「なる」ということはありません。

ただ今回は、「なら」ではなく「なり」の形になっているので、伝聞・推定の助動詞「なり」の可能性もありますが、今回も断定の助動詞「なり」の連用形となります。

その理由は「なり」の下の「けり」です。

伝聞・推定の助動詞「なり」には下に過去の助動詞「けり」を伴った「なりけり」の用法が存在しません。したがって、「なりけり」の「なり」の識別をするときは、伝聞・推定の助動詞「なり」の可能性は排除して考えることができます。(「なりけり」の「なり」は、断定の助動詞「なり」の未然形か四段動詞「なる」の未然形か、あるいはナリ活用形容動詞の未然形活用語尾である。)

⑥悲しきことあんなり。(悲しいことがあるようだ。)

次にこの例文です。

この例文の「なり」の上を見てみると「あん」となっており、「あん」はラ変動詞「あり」の連体形の撥音便になります。

そのため、この「なり」は伝聞・推定の助動詞「なり」の終止形と判断することができます。

なぜなら、伝聞・推定の助動詞「なり」は撥音便や撥音便無表記に接続することはありますが、四段動詞「なる」や断定の助動詞「なり」は撥音便や撥音便無表記に接続することはないからです。

そのため、「あんなり」や「あなり」など撥音便や撥音便無表記に「なり」が接続している場合は、伝聞・推定の助動詞「なり」であると確定することができます。

※「ある」が「あん」に変化することを撥音便、「あ」となることを撥音便無表記という。詳しくはこちら→推定の助動詞「らし」「なり」「めり」の解説(撥音便・撥音便無表記についても解説しています!)

⑦我、悲しく思ふなり。(私は悲しく思うのだ。)

最後に、この例文です。

この例文の「なり」の上を見てみると「思ふ」となっており、④⑤の例文と同様に、この「なり」は四段動詞「なる」ではありません。ただ「思ふなり」だけでは、伝聞・推定なのか断定なのかを判断することができません。

こうなると、あとは文脈判断となります。

この例文の主語を見てみると「我」となっており、主語が一人称(わたし)なので、この「なり」は断定の助動詞「なり」の終止形と判断します。なぜなら、自分がしたり思ったりしたことを、伝聞したり推定したりするのは不自然だからです。

このように、一人称が主語のときは伝聞・推定の助動詞になりにくいということは知っておいてもよいでしょう。

いかがだったでしょうか。このように「なり」の識別は接続だけではなく、パターンや文脈での判断もしないといけないことがあるので注意しましょう。

(3)解説授業の内容を復習しよう

重要な識別「ぬ・ね・る・れ・らむ・なむ・に・なり」文法事項確認テスト

重要な識別「ぬ・ね・る・れ・らむ・なむ・に・なり」練習問題

③重要な識別以外の識別もテストしてみましょう→識別全パターンテスト

(4)識別の解説授業一覧

「ぬ」「ね」の識別(打消の助動詞「ず」、完了・強意の助動詞「ぬ」)

「る」「れ」「らむ」の識別(受身・尊敬・可能・自発の助動詞「る」、完了・存続の助動詞「り」、現在推量の助動詞「らむ」)

「なむ」の識別(他者への願望の終助詞、強意の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「む」、係助詞、ナ変動詞の未然形活用語尾+推量の助動詞「む」)

「に」の識別(完了・存続の助動詞「ぬ」の連用形、断定の助動詞「なり」の連用形、格助詞「に」、接続助詞「に」、単語の一部)

「なり」の識別(四段活用動詞「なる」の連用形、伝聞・推定の助動詞「なり」、断定の助動詞「なり」)

識別全19パターンをマスターしよう!(し・しか・せ・たり・て・と・とも・な・なむ・なり・に・にて・ぬ・ね・ばや・めり・らむ・る・を)

補助活用が文法的に重要な理由を解説します!

古文でよく出てくる準体法とは何かについて解説します。

(5)参考

重要な識別「ぬ・ね・る・れ・らむ・なむ・に・なり」解説・テスト一覧

重要な識別「ぬ・ね・る・れ・らむ・なむ・に・なり」一覧

識別全パターン一覧

識別(古文)解説・テスト一覧

古文文法の解説動画・授業動画一覧(基礎知識、用言、係り結びの法則、助動詞、助詞、識別、敬語、和歌、主体の判別)

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