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断熱自由膨張(2013年センター試験本試物理Ⅰ第4問C)

(1)例題

下図のように、容器とシリンダーが接続されている。接続部分にあるコックを閉じることによって、容器とシリンダーを仕切ることができる。シリンダーにはピストンがついており、ピストンはシリンダーの奥からストッパーの位置までシリンダー内をなめらかに動くことができる。容器、シリンダー、ピストン、コックは熱を通さず、容器とシリンダーの接続部分の体積は無視できるものとする。 はじめ、容器の内部に気体(理想気体)が封入されてコックは閉じられており、ピストンはシリンダーの奥まで押し込まれている。このとき、気体の温度はT0であった。

①まずコックを開き、ピストンを右にゆっくり動かしながら、ストッパーの位置まで移動させた。このとき、気体の温度はT1であった。この過程で気体がした仕事をW1とする。次に、ピストンをゆっくり左に動かし、シリンダーの奥まで押し込んだ。このとき、気体の温度はT0であった。この過程で気体がした仕事をW2とする。 温度T0とT1の大小関係を等式または不等式で表せ。また、W1とW2の関係を表す式を等式または不等式で表せ。

②ピストンが押し込まれているはじめの状態から、コックを閉じたままピストンをストッパーの位置まで動かして固定する。その状態で、コックを開き、気体をシリンダー内に充満させた。このとき、気体の温度はT3であった。この過程では、気体は真空のシリンダー内に広がるだけであり、ピストンに対して仕事をしない。その後、シリンダーの奥までピストンをゆっくり動かし、気体を容器に戻した。このとき、気体の温度はT4であった。 温度T0, T3, T4の大小関係を等式または不等式で表せ。

(2013年センター試験本試物理Ⅰ第4問Cより)

(2)例題の答案

熱力学第一法則より
Qin=ΔU+Wout
容器、シリンダー、ピストン、コックは熱を通さないので、気体は熱量を吸収しないからQin=0である。

最初の過程で、気体の内部エネルギーの増加をΔU1とすると、熱力学第一法則より
0=ΔU1+W1 ・・・(あ)
気体はピストンに対して仕事をしたので
W1>0 ∴ΔU1<0
よって、内部エネルギーが減少するので、気体の温度は下降し、
T0>T1

次の過程で、気体の内部エネルギーの増加をΔU2とすると、熱力学第一法則より
0=ΔU2+W2 ・・・(い)
(あ)(い)の両辺の和をとると
0=ΔU1+ΔU2+W1+W2
ここで、気体の温度は、最初の過程でT0からT1に下降し、次の過程でT1からT0に上昇している。その結果、最初と最後では温度変化が0であるから、内部エネルギーの増加ΔU1+ΔU2も0である。よって
W1+W2=0

最初の過程で、ピストンをストッパーの位置まで動かして固定した後、コックを開き、気体をシリンダー内に充満させたとき、熱力学第一法則より
0=ΔU+W
気体はピストンに対して仕事をしないので
W=0 ∴ΔU=0
よって、気体の温度は変化せず
T3=T0

次の過程で、シリンダーの奥までピストンを動かし、気体を容器に戻したとき、熱力学第一法則より
0=ΔU+W
気体は圧縮されてピストンから仕事をされたので
W<0 ∴ΔU>0
よって、気体の温度は上昇し
T3<T4

(3)解法のポイント

①は断熱変化です。

気体の体積が膨張していれば仕事を「した」、気体の体積が小さくなっていれば仕事を「された」と考えてWの正負を考えます。

また内部エネルギーの変化と温度の変化は対応しており、内部エネルギーが増加するなら温度は上昇し、温度が下降するなら内部エネルギーは減少しています。

②真空部分に気体が膨張することを、断熱自由膨張といいます。断熱自由膨張の場合、気体の体積は増加しますが、仕事をしたとは考えず(ピストンを押したわけではないので)、W=0となります。

(4)必要な知識

①熱力学第1法則

②断熱変化

(5)理解すべきこと

気体が外部にする仕事(pΔVになるわけ、p-Vグラフ、熱機関のサイクル、定積変化、定圧変化、等温変化、断熱変化、断熱自由膨張)

②理想気体の状態方程式の使い方と計算の工夫の仕方を確認しましょう→理想気体の状態方程式の使い方解説動画(理想気体とは何か、混合気体の考え方、計算の工夫の仕方についても解説しています)

気体の内部エネルギーの表し方解説動画(内部エネルギーの増加量の3つの表し方、熱力学の第1法則、定積変化、定圧変化、等温変化、断熱変化、マイヤーの関係についても解説しています)

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定積変化・定圧変化・等温変化・断熱変化におけるp-VグラフとV-Tグラフ(ポアソンの法則についても解説しています)

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