【ニーチェ】『ツァラトゥストラはかく語りき』からニーチェの思想を学ぼう!【ルサンチマン】【超人】【永遠(永劫)回帰】

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参考文献

『ツァラトゥストラはこう言った』(上)(下)(ニーチェ著, 氷上英廣訳, 岩波文庫)

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動画の内容まとめ

ニーチェについて

フリードリヒ・ニーチェ(1844~1900)

  • プロイセン王国(現在のドイツ北部)の生まれ
  • 24歳でバーゼル大学の教授になった天才
  • 主著『ツァラトゥストラはかく語り』
  • 「神は死んだ」という言葉が有名
  • 日本では特に人気が高い哲学者

テーマ:ルサンチマンに囚われた末人(まつじん)から脱却し、超人に至るにはどうすればいいのか?

【今回のキーワード】

  • ルサンチマン
  • 末人(まつじん)
  • 超人
  • 永遠回帰(永劫回帰)

まずは、ルサンチマンとは何かを説明します。

①ルサンチマンとは何か

ルサンチマンとは、弱者が強者に対して抱く負の感情のことです。

弱者は強者を悪と決めつけますが、現実世界で強者に立ち向かうほどの勇気がないので、想像の中で復讐をしようとします。

例えば、有名YouTuberや芸能人に対して「楽して稼いでズルい」「性格が悪い奴しか成功しない」と決めつけて、「だから落ちぶれてしまえ」と失敗や不幸を望むような態度がルサンチマンです。

成功者をうらやましく思ってそれに憧れるだけならいいのですが、ルサンチマンは、自分の現状を変えようと努力するのではなく、成功者の没落を望むような、そんな卑しい感情です。

さらに、そういった感情を持っている人は、「強者は悪、弱者は善」と決めつけようとします。

つまり、「成功者はお金をたくさん持っているかもしれないけど、じつは心が貧しいんだ」と思い込み、「自分はそんなにずる賢くなれないから弱くて貧しいけど、道徳的には勝っているんだ」といったように価値をひっくり返そうともします。

もちろんこれは想像上の復讐に過ぎないわけですが。

そして、このようなルサンチマンが染みついた弱くて卑しい人間のことを「末人(まつじん)」と呼びます。

②末人(まつじん)とは何か?

末人は「おしまいの人間」という意味です。

先ほど説明したルサンチマンが染みついている末人は、自ら向上することを諦め、まるで奴隷のように受動的になり、周りに流されるまま生き、ただ漫然と日々を過ごしています。

末人が望むのは日々の安楽と現状維持です。主体的に行動しようとはせず、変化を嫌い、たとえ問題が起きたとしても、「誰かが何とかしてくれる」と考えて生きています。

末人は現代ではあふれかえっています。もはや大衆が末人であるとも言えます。

大衆が末人になってしまったのは、社会の在り方に原因があると言えます。あるいは、SNSが大衆の末人化に拍車をかけているかもしれません。

しかし、社会や政治を非難するだけで、自分を変えるために何も行動しないのであれば、末人から脱却することはできません。むしろルサンチマンを引き起こし、より末人がお似合いになっていきます。

ニーチェは末人を嫌っています。吐き気がするほど嫌いです。「畜群」「余計な者」「賤民」「ハエ」などと読んでいます。

末人から脱却するには、現在の弱い自分を乗り越えて、より高みを目指せばいいのです。

このように弱い自分を乗り越え、自分の人生を肯定しながら生きる力を持っている存在を「超人」と呼びます。

③超人になるためには?(永遠回帰の思想)

超人を目指すために、まずはちょっとした思考実験をしてみましょう。

「永遠回帰」を想定してみましょう。

自分の人生が永遠に繰り返されているとしたら、どう思いますか?

生まれ変わるのではなく、あなたの人生がそのまま繰り返されるのです。あなたは他の何ものにも生まれ変わりません。あなたはそのままのあなたで、全く同じ時に全く同じことをします。もちろん記憶も引き継げませんし、過去を改変することもできません。

全く同じ人生を永遠と繰り返す、この運命を受け入れることができますか?

末人はみな、この永遠に同じ人生が繰り返されるという「永遠回帰」の運命に耐えることができません。

恥や苦しみを永遠に繰り返すことに絶望を感じるからです。

しかし、末人の人生であっても楽しかったことや幸せだったことは少なからずあるはずです。それをもう一度経験したいと思わないでしょうか?

超人は、この永遠回帰が人間の運命だったとしても、その運命を喜んで受け入れることができます。

なぜなら、超人は自分の人生を強く肯定しているからです。そのため、全く同じ人生を何度でも繰り返していいと思えるのです。

確かに、過去につらいことや苦しいことがあったかもしれません。しかし、それなら、それ以上の幸福を、魂が震えるような喜びを経験すればいいと超人は考えます。

「これが人生か、さらばもう一度!」と超人は宣言することができます。

このように永遠回帰の運命を想定することで、自分の人生を肯定する力を見出すことができるようになります。

さらに、自分がこれからする行動に対して、「このことをもう一度、いや、無限に繰り返してみたいと思うか」と常に問うことで、人生への向き合い方が大きく変わると思います。

④超人の精神に至る三段階

超人の精神に至るには、3つの段階があります。

ラクダ→獅子→幼子

この3つの段階です。

1.ラクダ

第一段階のラクダは、重い荷物を背負って砂漠を行くラクダのように、精神に重く苦しいものを背負わせて、それを辛抱強く我慢する段階です。

誰かに屈服させられたり、人前で恥をかいたり、失敗したり、軽蔑されたり……そのような苦難に耐えながらも、勉強や努力に励むことによって、精神は強く鍛えられていきます。

その時はつらいかもしれませんが、苦しい経験を積んだ分だけ精神は強くなっていきます。

2.獅子

そして、精神を強く鍛えていけば、二段階目の獅子の段階に移行します。

その強い意志で、既存の価値観や社会の常識といったものを否定し、自分の中の信念に基づいて行動することができるようになります。

これこそが本当の自由です。

周りや社会からの「あなたはこういう人間でなければならない」という決めつけや、「あなたはこうしなさい」という命令にただ漫然と従って生きているのは、楽かもしれませんが自由ではありません。

そういったものに依存するのはやめて、自分の内側から湧き出る「自分はこうありたい」という声を聞き、それに従って自分の意志で自由に生きているのが超人なのです。

3.幼子

最後の段階は幼子です。

もう少し詳しく言えば、幼子のような無垢な精神です。

幼子のころを思い出してみてください。

そのときは、有名人に対する嫉妬なんて感じていなかったと思います。それに、お金のことなんて気にしなかったでしょうし、社会のルールにも縛られていなかったのではないでしょうか?

そのようなことは全く気にも留めず、ただ心のままに遊び、自由に振る舞い、そして、創造的であったはずです。

ときには周りのものをおもちゃに見立てたり、自分で新しい遊びを生み出したりしたこともあったのではないでしょうか?

このように、無垢な精神によって新たな価値を創造する存在こそが超人なのです。

幼子のように何にも縛られない精神で創造的にいきるのは、とても難しいことです。

そのためには、ラクダのように精神を強く鍛え、獅子のように自分の信念に基づいて自由に生き、そして、自分自身や自分の人生を肯定しなければいけません。そのための永遠回帰の思想なのです。


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